88『ファイナルイメージ二重回し』(ファイナルイメージ内『万策尽きて・土壇場のプランB』)
こうして、キトンとブンの共同生活が始まった。
ブンときたら、まるで執筆マシーンのような有り様で、キトンが食べさせてやらなければ食事もしない。
特に悪いのは、寝ないことだ。
ブンをベッドの中に引きずり込み、ようやく寝かしつけたと思ったら、小一時間後にはこっそりベッドを抜け出してノーパソに向かい合っている。
締切まで時間がないのは、キトンにも分かっていた。
だが、ここで倒れられては元も子もない。
一日が過ぎ、
二日が過ぎ、
三日が過ぎた。
四日目の朝、キトンがいくら揺さぶっても、ブンは目覚めなかった。
ブンが、過労で入院した。
『ごめんね』
キトンのスマホの中で、ヒカルが泣いている。
『アタシもブンちゃんのそばにいてあげたいんだけど、時間なくて』
市内の総合病院の病室で、キトンはヒカルを安心させるべくうなずく。
ヒカルは今、ありえない量のタスクを抱えている。
他ならぬキトンとブンのために、身を削る思いで描いてくれているのだ。
『ブンちゃんのこと、お願い』
「分かりましたっ」
通話を切る。
視線を下げれば、眠るブンの、真っ青な顔があった。
(ブン先輩、こんなになるまで)
キトンが頬に触れると、ブンが目を覚ました。
「締切まで、あと何時間?」
「先輩、もう休んでくださいっ。さすがに無理です」
「無理なんかじゃない」
「無理です! これで先輩が死んじゃったりしたら」
「僕のパソコンは?」
ブンが体を起こし、サイドテーブルを引き寄せた。
キトンはしぶしぶ、ブンにノーパソを渡す。
本当は家に置いてきたかった。
が、そんなことをすれば、最悪、ブンがパソコンを取りに戻りかねないと思ったのだ。
「勝算は、ある。もう書き上がっているんだ。だが、文字数にして十五万文字。ここから削らなければならない。まだ二日半ある。まずは原稿を読んでくれないかい」
ブンがドキュメントファイルを開こうとするが、手が震えて上手くいかないようだ。
代わりにキトンが操作した。
読む。
(どうしよう……全部面白い。全部カッコいい!)
キトンは号泣していた。
「もう、九万文字にこだわらなくたっていいじゃないですかっ。このまま提出すれば――」
「駄目だよ」
ブンが微笑む。
「もう二度と、千円超えの本は出したくないんだっ。もう二度と、読書メーターに『作者の自慰行為』なんて書かれたくないんだっっっ!! できることは全部やる。これが僕の、猫又ブンのラストバトルだ」
「分かりました」
キトンは覚悟を決めた。
「私が代わりにタイピングします」
数時間が過ぎた。
不要なエピソードを削り、十四万文字になった。
二十三日、夜。
受けゼリフおよび削減可能なセリフをすべて削って、十三万文字になった。
翌二十四日、昼。
多大な苦悩の果てに仲間キャラを一人削り、十一万文字になった。
同日、夜。
第二幕前半のバトルを泣く泣くダイジェストに変更し、ついに九万五千文字になった。
ここからはもう、代替可能な表現・熟語などに置き換えるという地獄のような作業によって一文字ずつ減らしていくしかない。
そうして運命の、二十五日十一時五十分。
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文字数カウント
単語数 90,000
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キトンはブンとハイタッチした。
そして即座に、ハンナにメールと電話をした。




