78『ラスボスは編集長』(高くそびえる塔)
「第三幕ってアレでしょ、第一幕から第二幕後半までの波乱万丈な流れを、圧縮してもう一回回す感じでしょ」
「よく分かってるじゃないか、ヒカル」
――こくこくこくっ
(ビーツ『万策尽きて』が『すべてを失って』に、『土壇場のプランB』が『TP2』に対応する)
「ってことは、楽しい展開あり苦しい展開あり、ラストに大ピンチが訪れたあと、どんでん返し的なプランBによってそのピンチを跳ね返して大団円、になるわけよね」
「そのとおりだ」
「大団円の映像といったら、真っ先に思い浮かぶのは授賞式よね」
「もちろん、それは書く。だが授賞式だけを延々と垂れ流すわけにもいかない」
――こくこくこくっ
「楽しいシーンが他にも必要ってわけね。キトンが、授賞式の写真を見たクラスメイトたちにめっちゃイジられるシーンなんてどう?」
「⁉」
「そんな死にそうな顔しないの、キトン。大丈夫、悪いイジり方には絶対にならないから。『オシャレした山田さんめっちゃ可愛い!』『山田さんって作家だったの⁉ すっごーい!』ってなもんよ」
「…………」
「具体的な根拠があるのさ。学校の図書館には千冊を超えるラノベ蔵書があり、その大半が常時貸し出されているんだ。僕の『悪魔祓師物語』もね」
(ラノベファン、そんなにいるんだ!)
「『デビダン』と『STC』が出たら、三冊が並ぶことになるよ。『猫又』というペンネームのラノベ作家は、僕たち二人しかいないから」
(『悪魔祓師物語』の隣に、私の本が⁉ その光景、絶っ対に見たい!)
「あとは、なんといっても二人の本が重版したことをハンナさんが告げるシーンよね」
「重版!」
「実現するかどうかはさておき、物語としてはぜひ取り入れたいシーンだね。それで、僕たち三人がハイタッチする」
「そこは四人じゃないんかいっ」
「だって、ハンナさんは基本、東京じゃないか」
「それもそっか。でもあの人、しょっちゅうこっちに来てない? アレコレ都合つけてはブンちゃんにちょっかいかけに来てるイメージなんだけど」
「心配してくれていたんだろうね。今なら分かるよ」
「ハンナさんのためにも、がんばらないと。ピンチ展開はどうする? どうせなら思いっきりドピンチにしたほうがいいわよね」
「これが一番悩ましい。ブンとハンナの対決、ブンと母の対決は、もう済んでいるからね。今さら僕たち三人をギスらせるものなんか違うし、降って湧いたようなトラブルというのも違和感がある。バトルファンタジーなら、ラスボス襲来なんだけどね」
「ら、ラスボス……編集長?」
「「それだ!」」
「わわわっ」
「……いや、思わず同意しちゃったけど、編集長と僕らがどう対決するんだい、キトン? 基本、お会いすることすらできないのに」
「こんなのはどう? 編集長が、編集会議で『STC』の発刊を却下する」
「大ピンチじゃないか⁉」
「うん、大ピンチ。ビーツ『万策尽きて』ね。で、ブンちゃんが『土壇場のプランB』を発動させ、編集長の判断を覆させる!」
「それは面白い! それで、どんなプランBを?」
「それを考えるのが、作家の腕の見せどころなんじゃない」
「まさかの丸投げかい⁉」
ブンは無事、書き上げることができた。
ブンからその旨のメッセージを受け取って、キトンは自室でジャンプしてすっ転んで母に叱られた。
それが、八月十六日のこと。
そうして八月十八日、編集会議当日――。




