77『おまえのものはおれのもの』(高くそびえる塔)
八月八日。
「ぶ、ブン先輩!」
「ちょっとブンちゃん、原稿進んでないってどういうこと⁉」
キトンはヒカルと合流し、ブン宅に突撃した。
母子家庭の彼女は小さなアパートに住んでいるのだが、家の中は整理が行き届いていた。
平日の日中なので、ブンの母は不在だ。
ブン専用の部屋はなく、畳敷きの寝室が半ば彼女の部屋になっていた。
「いや、書けてはいるんだよ……第三幕の序盤までは」
当のブンは目の下にどぎつい隈をごっそりとこさえ、額に冷や汗を浮かべていた。
キトンとヒカルはブンからノーパソを奪い取り、原稿を読む。
「よく書けてるじゃない。面白いと思うわよ」
――こくこくこくっ
「けど、第三幕の後半が、ものの見事に真っ白ね」
「だから言ったじゃないか!」
「どうしてなの?」
「知ってるだろう? 僕は脳内で映像化できるまで書けないタイプだ、と」
「あー……第三幕序盤までは実際に見聞きしてきたことだから、映像化は済んでいる、と。でもそれ以降の未来はまだ見てないから、書けないと?」
「……面目ない」
「なら、アタシたちを頼ってよ!」
――こくこくこくっ
「二人には二人のタスクがあるし、悪いと思って……」
ブンという少女は、人の世話は率先して焼くくせに、人に世話してもらうのは苦手なタイプなのだ。
「『おまえのものはおれのもの』」
「ジャイアンの名台詞。助けてくれるってことかい、キトン?」
――こくこくこくっ
「でも、悪いよ」
「水臭いこと言ってんじゃないわよ」
ヒカルが仁王立ちする。
「アタシがブンちゃんを助けるのは、もちろんアタシがブンちゃんのことが大好きだからなのもあるけど、自分のためでもあるの。早く原稿上げてもらえないと、アタシがイラスト入れられないでしょうが」
「仰るとおりです」
ブンが土下座した。
「助けてください、ヒカル様、キトン様」
「もちろんっ」
――こくこくこくっ
「というわけで、街に出ましょ。脳内執筆よ」




