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75『改稿』(高くそびえる塔)

 夏休み本番に突入し、キトンは宿題を片付けていく傍ら、『デビダン』の校正前改稿作業に勤しんでいた。

 といっても、ハンナは内容にほとんど口出ししてこなかったから、作業量は大したことはなかった――というより、一晩で八十五万文字の削減を指示してくるようなブンが、異常なほどスパルタだったのだ。

 そして、そんなブンに食らいついていったキトンもまた、異常だった。

 ハンナいわく「バケモンっスね。草」とのこと。


『九万文字物語として、「デビダン」はすでに完成し尽くしているっス』


 先日、Web通話の向こうでハンナがそう言った。


『しっぽ先生もすごいんスけど、これはブン先生の指導の賜物ですね』


 だが、細かな修正はあった。


『リリスにツノを生やしてほしいんス。「悪魔祓師物語」のヒロイン悪魔・リリスとまったく同じビジュアルにしてくださいっス』


『主人公アスマも同様っス。もしもアスマが「悪魔祓師物語」の主人公アスマの生まれ変わりだったら? と考えて、キャラの外見と立ち居振る舞いを微修正してくださいっス』


 のような、謎修正がたびたび入った。

 不思議に思いながらも、キトンはハンナを信じて修正した。


『修正する際にはファイル名を「デビライズ・ダンジョンズ_R1.docx」ってするんスよ。「R」は改訂、reviseのRっス。改訂を重ねるごとに、「R2」、「R3」と増やしていくんス』


 ハンナはときどき社会人っぽく、ドキュメントをバージョン管理する方法を教えてくれたりもした。


『MS Wordの変更履歴モードの使い方は分かるっスか? ……分かんないっスか。あぁ、別に詰めてるわけじゃないっスから気にしないで。先生はまだ高校生っスからね。じゃあ先生、ちょっと面倒ですけど変更履歴を付けましょっか。MS Excelで「デビライズ・ダンジョンズ変更履歴.xlsx」ってファイルを作ってもらえますか? んで、こういう表にしてくださいっス』





 ―――――――――――――――――――――――――――

 R 日付   内容

 0 mm/dd  初稿。

 1 mm/dd  〇〇についての修正。担当からの依頼により。

 ―――――――――――――――――――――――――――





『この、「〇〇について」の部分はふわっとでいいっス。逆に、まかり間違っても「何ページ目の〇〇の記述を〇〇に変更。何ぺージ目の――」みたいに列挙しちゃ駄目っス。変更履歴を書くだけでヘトヘトになってしまって、変更履歴を付けるのが面倒になってしまって、最終的に付けなくなってしまいますから。しっぽ先生の目線で、しっぽ先生が分かるレベルでいいんス。例えば「リリスの外見を『悪魔祓師物語』に寄せるための修正」とかね。それだけでも、先生なら「あー、ってことはこれ、リリス初登場シーンと学園での監禁シーンと神戸デートシーンとお風呂シーンだな」って分かるでしょう?』


 ハンナの言葉は実際そのとおりで、リリスの外観描写を見直すとしたら、ハンナが言ったとおりの四シーンだった。

 キトンはますます、ハンナへの信頼を深めた。





 そうして一週間後、ヒカル改め大人気イラストレーター・重ラヰトのラフが上がってきて、キトンは納得した。

『デビダン』のアスマとリリスが、『悪魔祓師物語』のアスマとリリスと瓜二つのデザインだったからだ。

 もとよりキトンは、『もしも「悪魔祓師物語」のアスマとリリスが令和のダンジョンワールドに生まれ変わったら?』を裏コンセプトに書いていたので、願ったり叶ったりだった。

 こっそり行っていた自分の行為(猫又ブン先生と重ラヰト先生が認めてくれなければ、著作権上非常にまずい事態になりかねなかった重大行為)を公式に認めてもらえた形になり、キトンはもう、夢のようだった。





 さらにまた、とある夕方。


『ところで、ブン先輩のほうは順調なんですか?』


 というキトンの書き込みに対し、


『あー……』


 ハンナが言葉を濁した。

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