66『だったら漕げばいいだろ!』(チームを作る)
(SAVE THE CATだ!)
ブンは痛感した。
救われていたのは、自分のほうだったのだ。
キトンの瞳がキラリと光る。
キトンの瞳に映るブンの世界が、キラキラと輝いている。
(まるでラノベだ)
つらく苦しい第二幕後半の果てに、主人公たちは『心の闇と夜明け』で覚醒するのだ。
試練を超えてパワーアップした主人公たちは、第三幕――ラストバトルに挑むのである。
(主人公はキトンだ。いや、僕か? これはダブル主人公の、九万文字ラノベだ!)
「うっぷ」
覚醒したはずのキトンが、急に顔色を悪くした。
「おえぇぇ……」
「ど、どうしたんだい?」
キトンがいきなり、その場で嘔吐した。
ブンはその背中を撫でる。
「……『QBK』」
「あぁ、急に語録以外で喋ったものだから、胃がびっくりしちゃったと」
――こくこくこくっ
「あはははっ! カッコいいシーンのあとにオチまでつけてくれるなんて、最っっっ高に主人公じゃないか」
ブンはキトンに、『第二幕後半は鬱展開』と教えた。
だが、それには語弊がある。
確かに、第二幕後半のほとんどはつらく苦しい展開だ。
だが、ビーツ『すべてを失って』と『心の闇と夜明け』を耐え抜いた果てに訪れる『ターニングポイント・ツー』こそが、物語の中で最も盛り上がる瞬間――主人公たちが『真世界』への扉を開く瞬間なのだ。
「ほら、これで口をゆすいで」
ブンはキトンにペットボトルを手渡す。
「でも、キミと同時発刊するっていったって、上原さんに渡せる原稿がないよ」
「『だったら漕げばいいだろ!』」
「コマンドー語録。ちなみに『デビダン』の改稿締切は?」
「一ヶ月後」
「白状すると、僕はキミに比べて筆が遅いんだ。一日二~三千文字といったところさ」
キトンがスマホの電卓を見せつけてきた。
『3,000 * 30 = 90,000』
「そのとおりなんだけど、また打ち切りになってしまったらと思うと……うっぷ」
「『人間には二百十五本も骨があんのよ、一本ぐらいなによ!』」
「『ターミネーター2』、サラ・コナーのセリフ。ふふっ、そうだね。今の僕は、一度死んだ身だ。キミに拾ってもらったこの命、キミのために使ってみるのも悪くない。分かったよ、書くよ。その代わり」
ブンはニヤリと微笑んでみせる。
「キミにも協力してもらうよ、キトン。絶対服従だ」
――こくこくこくっ
「うなずいたね? 上原さんには、『次回作はラブコメ・青春モノで』と言われているんだ。カップリングは指定されていない。女×女の微ユリモノでも許してもらえるだろう。そして僕は、今すぐ書ける微ユリネタを持っている。タイトルは、『SAVE THE CAT! ~自作小説が読まれなさすぎて■■しようとしていた子猫を拾ったら、エグいほど懐かれた件~』」
「⁉」
「気づいたね。そう、キミと僕がモデルの物語だ。三年ぶりのライトノベル大賞『大賞』受賞作の制作秘話暴露本として売り出せば、話題になるはずだ。少なくとも、上原さんは食らいつく。こんな売り方は邪道かもしれないけど、使えるものはなんでも使うべきだ」
「かっ、カタツムリ!」
「『ん? 今なんでもするって言ったよね?』」
「『なんでもは知らないわよ。知ってることだけ』」
「『化物語』の羽川翼。悪いが、その抗議は無視させてもらう。こちとらキミの無茶振りに応えるために無理しているんだから」
ブンはさっきから、楽しくて仕方がない。
万能感。
TP2を超えた主人公の覚醒状態。
「手前味噌だが、このタイトルはトリプルミーニングになっている。
一つ、ブンがキトンを救う。
二つ、キトンを受賞に導くために、ブンがキトンに『SAVE THE CAT』構文を教える。
三つ、キトンが猫又ブンを救う」
ブンはリュックの中からノートパソコンを取り出す。
予備の縄が引っかかって邪魔だ。
ブンは縄をそのへんに放り捨てた。
(自殺なんかしてられるかっ。時間がもったいない。今はただ、一刻も早くプロットが切りたい。この物語をBNBSに――90個のビーツに当てはめたい!)




