63『ハンナの真相』(迫りくる敵)
「見たっスか? ブン先生のお母君の、私を見る目」
社用車を走らせながら、ハンナが言った。
「まるで敵を見る目だったでしょ」
ブンはうなずく。
ヒカルはハンナのことをにらんでいる。
「本当は、ブン先生を新進気鋭の超美少女JC作家として売り出すつもりだったんスよ。華々しい衣装でおめかしさせて、授賞式で重ラヰト先生の真っ暗なヒロインのイラストを持たせて、にっこり微笑ませてお写真をパシャリ」
「……え?」
ヒカルの瞳に光が宿った。
「きらびやかな美少女が描く重厚なダークファンタジー世界を、どうぞ御覧じろ! ってね。そのために、重ラヰト先生にはことさら暗いカバーを描いてもらった」
「そんな」
ヒカルの目が、泳いでいる。
(ハンナさんの言葉を信じていいか、悩んでいる?)
「今日日、金賞受賞くらいじゃ続巻は難しいご時世っスからね。邪道と言われようが使えるものはなんでも使って、ブン先生の作家人生を少しでも幸多いものにしようと思ったんス。でも、私の目論見は潰えた。そんな露出をしたらまたストーカー被害に遭っちゃう、って先生のお母君がヒステリー……失礼、取り乱してしまわれたので」
「それ、ブンちゃんには言ったんですか?」
「言えるわけないじゃないっスか。先生とお母君の仲が破綻しかねない。だから、先生には内緒っスよ。ってか、こんな話するつもりじゃなかったのに。私も感傷的になってんのかなぁ、なんて……うわっ、人ぉ⁉」
急ブレーキと急ハンドル。
衝撃と、音。
幸い、キトンたちは誰も怪我をせずに済んだ。
「い、イノシシだった……けど、あちゃ~」
エアバッグに顔をうずめながら、ハンナがうめいた。
ボンネットが、ガードレールに突き刺さっている。
「この車は私がなんとかするっス。お二人はタクシーでも呼んで……いや、こんな時間と場所じゃ来ないか」
キトンはドアを開き、暗闇の中へと飛び出した。
もう、山の中腹まで来ている。
ここまで来れば、走ったほうが早い。
「ちょっと、キトン⁉」




