62『名無し猫さん』(迫りくる敵)
ブンは真っ暗な森の中で、額にびっしりと汗を浮かべて震えながら、まどろんでいる。
彼女は夢の中でさえ、悪夢に振り回されていた。
『0PV』
それは、呪われた表記だ。
【四】年前、ブンは今までヒカルに語るばかりだった『悪魔祓師物語』を初めて書き起こし、カクヨムに投稿した。
一気に十話(二万文字)をUPした。
その日、PVは一つも付かなかった。
あれ、システム障害かな?
冷や汗と動悸が止まらないまま自分をごまかすが、違った。
次の日も次の日も、何万文字、何十万文字UPしても、状況は変わらなかった。
もちろん、PVが付く日もなくはない。
が、数PVとか、よく読んでもらえる日でも十数PV程度。
世の中には毎日数千PV、数万PVも付いているような作品がゴロゴロ転がっているのに、どうして自分の作品だけ読まれないんだ?
ページを開くたびに飛び込んでくる、0PVの文字。
0PV0PV0PVゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロゼロ!
『1PV』
そんな地獄が何ヶ月も続いたある日、ブンのアカウントの通知ランプが灯った。
『感想が届いています』
震える指で、通知ランプをタップした。
『名無し猫: 大ファンです! キャラが可愛いうえに、ストーリーもすごくて。第一部の最後まで読んだんですけど、あのどんでん返しには思わず膝を叩いてしまいました。まさかアスマがリリスのグランドシジルだったなんて! こんな名作が埋もれてるなんて絶対におかしいと思います。これからも応援します!』
その日から、ブンの世界が色づいた。
毎日のように、名無し猫さんからの感想が届いた。
ブンは名無し猫さんに支えられながら、書いて書いて書きまくった。
大勢に届かなくてもいい。
たとえ少数でも熱烈なファンがいてくれるのなら、その人たちのために書き続けることができる。
勇気をもらえる。
ヒカルは少し寂しそうな――親元を離れた娘を見るような――目でブンを見ていたが、ブンのことを応援してくれた。
『名無し猫: 「悪魔祓師物語」なら、絶対に書籍化できると思います。賞に出したりはしないんですか? 出版したら絶対に買いますね!』
ブンは『悪魔祓師物語』第一部を再編し、『ライトノベル大賞』へ応募した。
結果は、金賞受賞。
中学三年生当時のブンは、それはもう舞い上がった。
『専業作家になる』
と宣言し、母と衝突したりもした。
あのころのブンは、受賞がすべての始まりだと信じていたのだ。
だが、実際は……。




