↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/51

60『ハンナへの疑念』(迫りくる敵)

「だってあの子は、幼稚園児のころにはすでに、『悪魔祓師物語』を完成させていたんだもの。一巻十五万文字分の物語だけじゃない。計十数巻分にも及ぶ壮大で膨大な物語がすでに、幼稚園児・夏目文子の脳みその中には完成していたの。化け物、怪物、天才よ」


 ヒカルの口調は、まるで神様を賛美するかのようだった。

 キトンは改めて、ヒカルの、ブンに対する感情の重さに戦慄する。


「アタシは、あの子の壮大で無限大な世界観に取り憑かれた。憑かれて憑かれて虜にされて、あの子の世界を絵にするのはアタシ以外ありえないって思った。その役目は、誰にも奪わせない。アタシは必死に絵の練習をした。七年間、毎日休まず絵を描き続けて、SNS上でフォロワー五万人を擁するいっぱしのイラストレーターになり、ブンちゃんがハンナさんと顔合わせしたときに、同席して自分を売りこむことに成功したの。けれど、あの女は……上原ハンナは、アタシに真っ暗な絵を描かせたの」


 ヒカルが忌々しげに、『悪魔祓師物語』のカバーを撫でる。


「見てよ、この絵。ライトさのかけらもない、暗い絵よ」


 悪魔の少女リリスが陽闇の中にたたずみ、妖しく微笑んでいる絵だ。

 幻想的で綺麗な絵だと思うが、確かにライトノベルのトレンドに合っているとは言いがたい。


「ブンちゃんは、もっと明るくて華々しいカバーを希望していたの。だけど、上原は『ダークさ』を前面に出すよう指示してきた。アタシもブンちゃんも必死に抵抗した。けど、こういうのって全部全部ぜーんぶ担当編集の一存で決まるの。ブンちゃんの悲しそうな顔を目の当たりにしながら、この暗い絵を描かざるをえなかったアタシの気持ちが分かる?」


 底知れない怒りがこもったヒカルの瞳に、キトンはぶるりと震える。


「結果、『悪魔祓師物語』は見事に大コケ。カラフルなカバーだったら結果は違っていたはずだと、アタシたちは今でも思っているのよ」


(ハンナさんは、どうしてそんなことを? ブン先輩への嫌がらせで? いや、まさかそんな)


 上原ハンナ。

 ハンニバルのマスクをしているヤバい女だが、悪い人には見えなかった。

 だが、少なくともヒカルは、ハンナのことを敵だと見なしているようだった。


(分からない……何が正解なのか)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。