59『ブンとヒカルの過去』(迫りくる敵)
幼馴染のブンちゃんは、幼稚園のころからとびきり綺麗な子だった。
恋愛感情こそなかったものの、アタシはかなり重めの感情を抱いていたように思う。
小学生高学年のころには、ブンちゃんはすでに完成された美少女で、ストーカー騒ぎすらあるほどだった。
ブンちゃんのお母さんが何度も何度も警察に電話して、警備を増やせとかなんとか叫んでいたのをよく覚えている。
ブンちゃんはそんなおばさんのことが苦手で、おばさんが叫んでいるときは、自室でアタシの手をぎゅっと握りながら耐えていた。
あの子は昔から、緊張すると手が冷たくなった。
おばさんがブンちゃんの心を守ってくれないのなら、アタシが守るしかないじゃない、と思った。
それが、原風景。
アタシの根幹。
アタシはアタシの人生を、ブンちゃんを中心に回そうと決めた。
それほどにブンちゃんは魅力的で、庇護欲をそそる子だった。
けれど、綺麗であることだけがブンちゃんの魅力ではなかった。
むしろ、あの子の美貌は単なる付属物にすぎなかった。
アタシがアタシの人生を捧げようと決めるほどにまで惚れ込んだ要素は他にあった。
それこそが――、『物語』だった。
話は再び、幼稚園のころにまで遡る。
幼稚園のあの日々で、毎日必ず訪れる、お昼寝の時間が人生最大の楽しみだった。
先生が読み聞かせてくれる絵本が、じゃない。
他の子たちの世話に忙しい先生に代わり、ブンちゃんが読み聞かせてくれる物語に、アタシは夢中になったのだ。
『読む』のは、ブンちゃんの脳内だ。
あの子の脳内には、無限の物語が広がっていた。
その物語は、名を『悪魔祓師物語』と言う。
ブンちゃんは、アンタが三年間で五百万文字を書いたことをずいぶんと褒めていた。
僕にはあんなにたくさん書けないよ、なんてことも口にしていた。
けれどそれは、とんでもない謙遜だ。
なぜって?
だって――




