57『ブンの決意』(迫りくる敵)
ブンはコーヒーを飲もうとしてリュックサックを手探りで開こうとし、それでようやく、陽がすっかり落ちてしまったことに気づいた。
目の前が暗くなっていることにすら気づけないほど、取り乱していたのだ。
なおも怒りに任せてリュックを漁っているうちに、底のほうに押しやっていた縄の感触に気づいた。
ブンは縄をぎゅっとつかんだまま、考えた。
……やるか? どうせ、人生のピークは三年前に終わっている。
(それに今やれば、キトンが盛大に取り乱し、上原さんにあることないこと吹き込んでくれるかもしれない。そうすれば、聡い上原さんはキトンの『デビダン』発刊に合わせて動くだろう。僕は、最期に『悪魔祓師物語』を重版させることができるかもしれない)
激情は、怒り・絶望・諦観と、それでも意地汚く希望を見つけ出そうとするみっともない感情――またの名を『恐怖』――の間で何分も、何十分も揺れ動き続けた。
「……っ」
小一時間ほども悩んだ末、ブンは縄から手を離した。
真っ暗闇の中で死ぬのは、どうしても怖かった。
ブンは昔から、寝るときに部屋の照明を最弱で点けていないと、怖くて眠れない子どもだった。
母はそんなブンを、『■■ちゃんにそっくり』と言って喜んでくれた。
そんなだから、自分は五月のあの日、よく晴れた日の真っ昼間を選んだのだ。
そうして図らずも、あの人見知りな子猫を拾ってしまったのだ。
(朝日が昇ったら、やる。今度こそ、やるんだ)




