50『脱稿』(お楽しみ・ラストでBストーリー)
そこからの日々は、記憶が曖昧だ。
キトンは書いた。
書いて書いて書きまくった。
何度も書いては消してを繰り返し、ブンの添削やヒカルのイラストに励まされながら書き続けた。
第二幕後半は、文字どおり地獄だった。
シスターに裏切られたアスマの心境を思うと吐きそうになったし、実際、何度も吐いた。
感情移入しすぎるあまり、悪夢を見て、真夜中に飛び起きることもあった。
しかも、そんな地獄の思いをして出力した数万文字を、一万文字にまで切り詰めねばならない。
それでもブンが支えてくれたので、キトンは駆け抜けることができた。
地獄を抜けたあとの第三幕は、震えるほど楽しかった。
楽しさのあまり十万文字以上書いてしまって、これまた泣きながら取捨選択する羽目に陥った。
キトンは切って削って切って削って、BNBSにピースを当てはめていった。
一週間が過ぎ、
二週間が過ぎ、
三週間が過ぎた。
そうしてついに、締切の五月末日。
「ちょっとキトン、まだ応募していないってどういうこと⁉」
放課後の部室に、ヒカルが飛び込んできた。
「って、うわ」
真っ青な顔のキトンとブン。
「え、もしかして原稿データ飛んだとか?」
「『大丈夫だ、問題ない』」
「たった今、推敲が終わったのさ。おかげで三徹だよ」
身を粉にして協力してくれたブンが、どぎつい隈ができた目をキトンのほうに向けてくる。
「さてキトン、あらすじは登録した?」
――こくこくこくっ
キトンは『ライトノベル大賞』の応募フォームをスマホに表示させる。
「本名とペンネーム、電話番号、職歴は?」
――こくこくこくっ
「原稿はちゃんと最終版かい?」
――こくり
「よろしい。では、応募ボタンを押したまえ」
――ぽちっ
数秒して、『ご応募を受け付けました。受付番号はxxxxxxxxです』という画面が表示された。
感極まったキトンは、我知らず泣いていた。
「キトン!」
ブンが両手を上げた。
ヒカルも両手を上げた。
つられてキトンも両手を上げる。
三人でハイタッチした。
「今日のヒント」
まぶしそうに笑うブンが、言った。
「僕はキミとFFだ」




