49『もうお嫁に行けない……』(お楽しみ・ラストでBストーリー)
「『もうお嫁に行けない……』」
「あはは。古式ゆかしき慣用句かな。もしくは『検索してはいけない』シリーズ?」
その後も先輩たちに連れ回され、着せ替え人形にさせられ、何度も裸を見られたキトンは、心に傷を負った。
「大げさな。女同士なんだからノーカンよノーカン」
ヒカルが腕を肩に回してきた。
どうやら自分は、この地雷系美少女にずいぶんと気に入られてしまったらしい。
「でも実際、成果はあったわよ。キョドりながらもアンタ、店員さんとお話できてたじゃない」
「そうだよ、キミはやればできる子なんだから」
「!」
先輩たちが言ってくれたとおりで、思い返せば自分は、たどたどしくも複数の店員とコミュニケーションを取れていた。
いい会話サンプルが取れた。
「そうさ、その意気だ」
ブンがニヤリと微笑んだ。
「キミは作家だ。取材だと思えば、苦手なことも我慢できるだろう? さぁ、お買い物の次はカラオケと洒落込んで、青春サンプルを増やそうじゃないか」
カラオケ、ボーリング、ゲーセン。
高架下の小物屋を冷やかしたり、ジェラートを食べ歩いたり。
(デ、デートだコレ!)
キトンの脳内が、無数の『シーン』で埋め尽くされる。
勇気を振り絞ったシスターにデートに誘われ、ドギマギしながら三宮に繰り出すアスマ。
幼い頃からダンジョンシーカーになるための修行に明け暮れていた彼は、一般的な十代の人生を知らず、ありきたりな青春に対して羨望と畏怖を抱いている。
シスターはデートを通じてそんな彼の心を解きほぐし、アスマの年相応な笑顔を引き出すのだ。
遠くから尾行していたリリスは、そんなアスマの表情を見て愕然となる。
そして、そうなって初めて、自分がアスマに対して抱いていた感情の正体に気づくのだ。
「うふっ、うふふふふっ」
「おっ、スイッチが入ったみたいだね」
帰り道、キトンは駅のホームで、折りたたみキーボードを取り出そうとする。
「もう電車が入ってくる。乗車してからにおし」
――こくこくこくっ
「ブンちゃんて」とヒカル。「ホント、オカンだよね」
「誰がオカンか!」
などと先輩たちが話している間に、電車が入ってきた。
「ほらキトン、足元ちゃんと見て。はい、座って」
席に着いたとたん、キトンは猛烈な速度で執筆を始めた。
シスターも、もとは一般的な学生だったのだ。
だが、スタンピードに巻き込まれて死んでしまった彼女は、悪魔大公爵ブネの死霊術によって蘇り、ブネの下僕となった。
生前の記憶がありつつもブネに逆らえないシスターは、アスマとのデートを本心から楽しみつつも、やがて自分が起こすことになる重大な裏切りに震えるのだ。
アスマが抱いた束の間の希望は、最低最悪の形で裏切られることになる。
BS2もといBNBSが語る、物語の最大最悪の転換期、『ミッドポイント』の到来だ。
「今日のヒント」
家路の途中、ブンたちとの分かれ道で、ブンが夕日を背に微笑んだ。
「僕は、世界に対して重大な嘘をついている」




