第八十話 「野次馬の来訪は、シリアスな絶縁をエンタメに変える」という話
次は仲直り(笑)かな
詩織の別荘、手入れの行き届いた庭園。
柔らかな風と、静かな午後。
「……静かだな」
拓海は、紅茶を一口飲んで息を吐いた。
耳元で誰かが「合理的」と囁かない。
距離を測られない。
勝手にスケジュールを組まれない。
「……静かって、こんなに楽だったんだな……」
「そうでしょう、拓ちゃん」
詩織が満足げに頷く。
「顔はいいけど、あのハミルトンとかいう子、ちょっと極端すぎるのよ。
お姉ちゃんがちゃんと守ってあげるからね」
スコーンが追加される。
「いや、もういいって。これ三個目――」
「遠慮しなくていいのよ」
「そういう問題じゃねぇって」
平和である。
―の、はずだった。
「やあサエキ。元気?」
門の向こうに、見覚えのある顔。
そして、最高に場違いな声。
「……ジョージ?」
「スコットランドの空気は寮より美味しいかい?」
「なんでお前ここ分かるんだよ」
「いやぁ、第4寮が静かすぎてね」
当然のように門をくぐり、
当然のように席に着き、
当然のように紅茶を取る。
「……あ、これ美味しいね。お姉さん、センスいい」
詩織、無言でスコーンを一つ増やす。
「で、サエキ」
嫌な予感。
「君がいなくなってから、あのアインシュタインの再来(笑)がさ」
「やめろその呼び方」
「“別荘周辺の気流を操作して、僕の声を拓海の耳に直接届けるシステム”のコスト計算始めたよ」
「……は?」
「怖い」
「だよね」
ジョージは当然のように頷く。
「だから僕が“それ100%嫌われるよ”って言ったらさ」
スマホを取り出す。
「これ」
差し出された画面。
豪華な椅子。
膝を抱える美少年。
絶望。
「…………」
「ハミルトン」
「…………」
一秒。
二秒。
「……ぶっっ!!」
耐えきれなかった。
「ぶははははは!! なんだよこれ!!」
「ハミルトンかよこれ!!」
庭に、笑い声が響く。
ここ数日、張り詰めていた何かが、音を立てて崩れた。
「そうそう、それだよ」
ジョージが肩をすくめる。
「サエキはこうじゃないとね」
「……お姉さん、安心してください」
詩織に軽く視線を向ける。
「彼、もう怒るのもアホらしくなってきてますから」
「……本当にいい性格してるわね、貴方」
「光栄です」
スコーンを取る。
「さてサエキ」
少しだけ身を乗り出す。
「いつ戻る?」
「……は?」
「君いないとさ」
さらっと言う。
「ハミルトンが寮の庭に“サエキ拓海・永久欠番”の銅像建て始めかねないんだよね」
「……は?」
「景観的に困る」
「いや、やめさせろ!」
「だから戻ってきてくれない?」
一拍。
拓海は、手に持っていたスコーンを見た。
そのまま一口かじる。
「……」
そして。
「……建てる前に帰るわ」
ぽつりと。
「バカかよあいつ……」
ジョージの記録:
【サエキ事変・野次馬介入編】
サエキ拓海、
観測者の持参した「主人の無様な近影」により、
絶縁 → 呆れ
へと移行。
結果:
本件はシリアスな断絶状態から、
通常運転へと再設定された。
(追記)
ハミルトン様、現在謝罪文を作成中。
添付資料:
「資産運用計画書(約300ページ)」
(……却下予定)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




