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第七十四話 「契約の最終形態は、公的な宣言を必要とする」という話

ついに・・・?

新学期の喧騒が続く廊下。


人の流れが絶えず、声が重なり合うその中心で―

一つだけ、明らかに異質な「静」があった。


エドワード・ハミルトン。


その腕には、場違いなほど重厚な一冊の本。

百科事典のように分厚く、金縁の装丁が光を反射している。


表紙には、重々しく刻まれていた。


『日本の伝統儀式:結合の絶対契約』


「……おい、エド」


拓海が眉をひそめる。


「また物騒な本持ってんな。今度は何だよ」


「調べたぞ、拓海」


エドワードは即答した。


「これまでの“運命”や“宝物”は、感情的なラベリングに過ぎない」


一拍。


「法的、かつ構造的な拘束力が不足していた」


「だからやめろその方向性」


エドワードは気にしない。

本を開き、ある一節を示す。


「この文献によれば、日本における最も強固な排他的独占契約は――」


一拍。


「『ケッコン(結婚)』と定義されている」


「非常に合理的だ」


「……は?」


嫌な予感が、形になる。


その瞬間。


エドワードは、廊下の中央で膝をついた。


静かに。

迷いなく。

まるで叙任式のように。


ざわめきが止まる。

周囲の視線が、一斉に集まる。


スマートフォンが、同時に起動した。


「――佐伯拓海」


低く、よく通る声。


「私は、お前との『ケッコン』を、ここに予約プレオーダーする」


「……ぶっっっ(本日二回目)!!!!」


拓海は、飲んでいたプロテインを盛大に吹き出した。


「予約すな!!」


「何を勝手にプレオーダーしてんだよ!!」


「不服か?」


エドワードは立ち上がる。


「注釈によれば、これは“戸籍の統合”および“資産と運命の共有”を伴う不可逆プロセスだ」


「お前をハミルトンの管理下に置くための、最短ルートだと思わないか?」


「思わねぇよ!!」


「それは普通、愛し合ってる男女がするやつだ!!」


「男同士で! しかも15歳と17歳で言うことじゃねぇんだよ!!」


顔が、限界まで赤くなる。


だが。

エドワードの表情は、変わらない。


「性別や年齢はノイズだ」


一拍。


「重要なのは、“独占の確定”だ」


そして、視線を周囲へと向ける。


「……聞こえるか、周囲のノイズども」


静かな宣告。


「サエキは、私の『ケッコン・ターゲット』だ」


一拍。


「手出しは一切、ハミルトンへの宣戦布告と見なす」


「――なんてこった……プロポーズだ!」


「ハミルトンがサエキの人生ごと予約しやがったぞ!」


歓声。

拍手。

指笛。

完全に、誤解は確定した。


「……ジョージ……」


壁に頭を打ち付けながら、拓海が呟く。


「……もう無理だ……この学校に居場所がない……」


その少し離れた場所。

ジョージは、ベストポジションを確保していた。


(……完璧だね!)


シャッターが、止まらない。

ペンが走る。


【観測結果】


ハミルトン様、言語による包囲網を

法的拘束のつもり」へとアップデート。


学園内にて“婚約状態”が事実として流通開始。


追記。


学園公式掲示板にて

『ハミルトン卿、サエキとの婚約を公式発表』スレッドが

短時間で1000件を突破。


(……既に既成事実化)


「タクミ」


「……何だ……」


「次は、日本の『ユイノウ(結納)』という経済的補償を調べる」


「調べるな!!」


「経済的補償とか言うな!!」


「金で買おうとすんな!!」


188cmの身体が引きずられる。

165cmの影が、それを当然のように導く。


構図は、すでに固定されていた。

ジョージは、最後の一行を書き加える。


【サエキ事変・結婚宣言編】


ハミルトン様、執着を「契約」という名の檻へ変換完了。

対象サエキの自由意志は、ロジックにより再定義されつつある。


追記。


対象のストレス指数、計測不能域へ到達。


ハミルトン様はこれを

「結婚前のマリッジブルー」と診断。


(……重症)


ジョージは静かにノートを閉じた。

もはや、後戻りは不可能だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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