第七十三話 「構造的差異は、執念によってねじ伏せる」
なんかどんどんキャラクターが勝手に突っ走っていく・・・
毎回こうなんだよなぁ・・・
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『構造的差異は、執念によってねじ伏せるという話』
新学期前。クレストフィールド学院・学生寮。
石造りの廊下には、乾いた足音だけが反響していた。
日本の夏祭りの湿った熱気は、すでに遠いアーカイブの彼方にある。
ここに残るのは、規律と静寂、そして切り分けられた時間だけだ。
その中で、一室だけがわずかに温度を持っていた。
閉じられたドアの向こうから、断続的に漏れ聞こえる声。
内容は極めて不毛。だが、奇妙な熱量を帯びている。
ジョージは足を止め、ノートを開いた。
「拓海」
低く、迷いのない声。
「私とお前の2学年の差は、致命的なシステムエラーだ」
わずかな間。
「既に、お前のシニア講義への同時受講許可を申請してある」
「勝手に受講すんな!」
即座に返る声。
「15歳がシニアの講義来る場所じゃねぇだろ! 自分の学年の教室行け!」
「……却下だ」
静かな即答。
「お前の数学力はゴミだ、拓海。補正が必要だ」
「言い方!!」
短い沈黙のあと、衣擦れの音。
ジョージは扉に寄らず、わずかな隙間から状況を把握する。
ベッドの上。
丸くなった大きな身体。
その背中に、エドワードの影がぴたりと重なっている。
距離は、ほぼゼロ。
(……確認。接触状態、継続)
(……離脱傾向、なし)
ペンが静かに走る。
■追加観測事項
・対象の学業への不当介入:計画段階から実行段階へ移行
・物理的障壁(学年差):
→執念により無効化。存在しないものとして再定義済み
ハミルトン様は、もはや「条件」を考慮していない。
学年、制度、時間配分。いずれも例外なく処理対象となっている。
必要なのは、ただ一つ。
対象との距離の維持。
「タクミ」
声が近い。
「外部ログは不要だ」
一拍。
「ここには、私とお前しかいない」
「いるわ!! 普通に人いるわ!!」
「同期を受け入れろ」
「……お前さ」
拓海の声が少し沈む。
「英語で喋ってるときのほうが内容重いんだよ……」
一拍
「時差ボケの頭にそれはきつい……」
布の沈む音。
抵抗は続いているが、持続力は低下している。
(……対象、疲労状態……逃走可能性、低)
ジョージは、最後の項目を書き加えた。
【サエキ事変・帰国翌日・追記】
ハミルトン様、行動指針を更新。
・学年差:無視
・時間資源:取得開始
・対象:常時接続状態へ移行
なお。
対象は、現状を正確に認識していない。
扉の向こう。
「……タクミ」
「……寝かせろ……」
「拒否する」
わずかな間。
「……お前は、私のものだ」
「……うるせぇ……」
沈黙。
(……安定)
ジョージはノートを閉じた。
観測対象は、正常に稼働している。
そして同時に。
極めて高精度で、逸脱している。
ジョージは静かに踵を返し、廊下の奥へと消えた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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