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第七十三話 「構造的差異は、執念によってねじ伏せる」

なんかどんどんキャラクターが勝手に突っ走っていく・・・

毎回こうなんだよなぁ・・・

83

『構造的差異は、執念によってねじ伏せるという話』


新学期前。クレストフィールド学院・学生寮。


石造りの廊下には、乾いた足音だけが反響していた。

日本の夏祭りの湿った熱気は、すでに遠いアーカイブの彼方にある。

ここに残るのは、規律と静寂、そして切り分けられた時間だけだ。


その中で、一室だけがわずかに温度を持っていた。


閉じられたドアの向こうから、断続的に漏れ聞こえる声。

内容は極めて不毛。だが、奇妙な熱量を帯びている。


ジョージは足を止め、ノートを開いた。


「拓海」


低く、迷いのない声。


「私とお前の2学年の差は、致命的なシステムエラーだ」


わずかな間。


「既に、お前のシニア講義への同時受講許可を申請してある」


「勝手に受講すんな!」


即座に返る声。


「15歳がシニアの講義来る場所じゃねぇだろ! 自分の学年の教室行け!」


「……却下だ」


静かな即答。


「お前の数学力はゴミだ、拓海。補正が必要だ」


「言い方!!」


短い沈黙のあと、衣擦れの音。


ジョージは扉に寄らず、わずかな隙間から状況を把握する。


ベッドの上。

丸くなった大きな身体。

その背中に、エドワードの影がぴたりと重なっている。


距離は、ほぼゼロ。


(……確認。接触状態、継続)


(……離脱傾向、なし)


ペンが静かに走る。


■追加観測事項


対象サエキの学業への不当介入:計画段階から実行段階へ移行

・物理的障壁(学年差):

 →執念により無効化。存在しないものとして再定義済み


ハミルトン様は、もはや「条件」を考慮していない。

学年、制度、時間配分。いずれも例外なく処理対象となっている。


必要なのは、ただ一つ。

対象との距離の維持。


「タクミ」


声が近い。


「外部ログは不要だ」


一拍。


「ここには、私とお前しかいない」


「いるわ!! 普通に人いるわ!!」


同期シンクロを受け入れろ」


「……お前さ」


拓海の声が少し沈む。


「英語で喋ってるときのほうが内容重いんだよ……」


一拍


「時差ボケの頭にそれはきつい……」


布の沈む音。


抵抗は続いているが、持続力は低下している。


(……対象、疲労状態……逃走可能性、低)


ジョージは、最後の項目を書き加えた。


【サエキ事変・帰国翌日・追記】


ハミルトン様、行動指針を更新。


・学年差:無視

・時間資源:取得開始

対象サエキ:常時接続状態へ移行


なお。


対象は、現状を正確に認識していない。

扉の向こう。


「……タクミ」


「……寝かせろ……」


「拒否する」


わずかな間。


「……お前は、私のものだ」


「……うるせぇ……」


沈黙。


(……安定)


ジョージはノートを閉じた。


観測対象は、正常に稼働している。


そして同時に。

極めて高精度で、逸脱している。


ジョージは静かに踵を返し、廊下の奥へと消えた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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