第七十二話 「観測は娯楽と化す」という話
やっと戻ってきた感じ。ジョージ君のイメージをちょっと変えてみた。
帰国翌日。クレストフィールド学院・学生寮。
静かだった。
廊下には、日本の祭りの喧騒も、湿った熱気も、提灯の明かりも届かない。
ただ、石壁に反響する足音だけが、規則正しく続いている。
「……さて」
ジョージは、友人の部屋の前で立ち止まる。
軽くノック―は、しない。
そのまま、音もなくドアを開いた。
「お邪魔しまーす」
一歩踏み込んで、止まる。
「……あー、うん。想定通りだね」
室内は、本来ハミルトンの美学に基づいた
「無駄のない空間」のはずだった。
だが、そこには。
188cmの巨大な「異物」が、
トランクを開けたままベッドに横たわっている。
「……疲れた……。時差ボケだ……。寝かせろ……」
「非効率だ、タクミ」
その隣。
すでに、距離、ほぼゼロ。
「回復には適切な姿勢と、私のバイタル同期が必要だ」
「いや要らねぇよ!!」
「寝かせろって言ってんだろ!!」
ジョージは静かにノートを取り出しながら、ベッドの距離感をちらりと確認する。
「うん、完全に“定位置”確保されてるね」
さらさらと書き込む。
【観測開始】
■対象:エドワード・ハミルトン
■状態:明確な“仕様変更”を確認
「いやぁ、帰国早々これは面白いなぁ」
独り言のように呟く。
「前はさ、“他人=ノイズ”って感じで全部排除してたのに」
視線を二人に向ける。
「今、“ノイズを内蔵してる”もんね」
「誰がノイズだ!!」
「タクミ」
「……なんだよ」
「……距離が遠い」
一拍。
「……0.1ナノメートル単位で修正しろ」
「遠くねぇよ!!密着してんだろ!!」
ジョージはペンを止め、ふっと笑う。
「いやいや、これもう誤差の話じゃないでしょ」
ノートに追記。
(視線追従:100%)
(呼吸同期:ほぼ一致)
「……すごいなこれ。ほぼ“同一個体”だよ」
「違ぇよ!!」
ジョージは、ベッドの周囲を一歩だけ移動する。
観察角度を変える。
「へぇ……」
「“孤立”じゃないね、これ」
一拍。
「“内包”だ」
ペンが軽やかに走る。
エドワードは孤高を捨てたのではない。
自分の領域の中に、拓海を“追加した”。
それだけだ。
「タクミ」
「……今度はなんだよ」
「ナツミとは、どの程度の関係だ」
「幼馴染だよ」
「……曖昧だ」
一拍。
「……17年の時間は、買収可能か」
「できるか!!」
ジョージ、吹き出す。
「あはは! 無理だよそれはさすがに!」
ノートに追記。
(外部要因:ナツミ)
(危険度:爆上がり中)
「いやー、いいねこれ」
「完全に“敗北後の行動修正”だ」
「なんだそれ」
「日本でさ、負けたでしょ?」
軽く言う。
「だから今、“逃げられない形”に変えてる」
エドワードは否定しない。
「……タクミ」
「今度はなんだよ!!」
「お前は、どこにも行かない」
一拍。
「……この部屋の気圧も、酸素も、私の管理下にある」
「やめい!スケールがデカすぎるわ!!」
「そもそも行くわ!! 大体学校あるんだよ!!」
「…否定する」
即答。
「お前の時間は、全て予約済みだ」
「勝手にスケジュール組むな!!」
ジョージは、ぱたん、とノートを閉じた。
【サエキ事変・帰国翌日】
ハミルトン様、行動指針を更新。
孤立 → 対象固定
「うん、いいね。分かりやすい」
軽く満足そうに頷く。
「あとこれ、多分もう戻らないやつだ」
「戻れ!!」
ジョージはドアへ向かう。
「じゃ、ごゆっくり」
「くつろげるか!!」
扉を開ける。
「タクミ」
「……今度はなんだよ」
「……動くな」
「無理だっつってんだろ!!」
「重いんだよ!!」
ドアが閉まる。
ジョージは廊下に出て、少しだけ笑った。
(……安定)
(…あれが通常運転になるの、時間の問題だな)
軽く肩をすくめる。
(まぁ、面白いからいいか)
そのまま、足音もなく闇へと消えていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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