第六十五話 「幼馴染の”解像度”は、執着のピクセルを粉砕する」という話
「」→日本語
『』→英語
→すみませんが脳内変換してください!
エドワード、菜摘に負ける。
打ち上げ花火が、夜空を焼く。
土手の上。
光と音が交互に降り注ぐ中で。
エドワードは、拓海の浴衣の背を両手で掴み、ぴたりと張り付いていた。
離れない。
というより――離れる気がない。
『タクミ。確認だ』
低い声。
『花火の構造的振動が、私の神経系に干渉している』
一拍。
『お前の手を音響シールドとして直ちに展開しろ』
「うるせぇ!!自分で耳ぐらい塞げ!!」
だが。
「タクミ。ボクハ、コワイ」
「耳、アツイ。オマエ手デフサゲ。アップデート、完了」
「日本語やめろ!!」
拓海は背後の“姫”を引き剥がそうとする。
しかし。離れない。
そのとき。
隣でラムネを飲んでいた菜摘が、ふいっと動いた。
自然に、何の躊躇もなく。
拓海の肩に、頭を預ける。
距離、ゼロ。
「……ねぇ、たっくん」
静かな声。
「それさ」
一拍。
「距離、近くない?」
「……ッ!?」
その瞬間。
エドワードの思考が、止まる。
完全にフリーズ。
『ナツミ』
ゆっくりと、声が落ちる。
『お前の生物学的近接は過剰だ』
『この188センチの質量は、私の観測ログに属している』
「ナツミ。フジュンブツダ」
「オマエ、離レロ」
「タクミ、ワタシ、専用」
「アップデート、済ミ」
「えー?」
菜摘は、まったく動じない。
「でも、たっくん昔からこうだよ?」
そのまま、拓海の腕をぎゅっと抱き寄せる。
自然に。
当たり前のように。
「小さい頃とか、もっとくっついてたし」
一拍。
「お昼寝の時とか、たっくんが腕枕じゃないと寝られない時期もあったんだよ?」
「…………っ!!」
エドワードの顔が、崩れる。
完全な崩壊。
17年の、その重み。
『……不可能だ』
震える声。
『17年分のバックグラウンド・データだと……?』
『私の一年間のアーカイブが…幼少期の記憶に上書きされている……!?』
『ジョージ!!この記録、削除しろ!!』
「コノ女、消セ!!」
「ワタシ、負ケ!! デリート、シロ!!」
後方。
ジョージのカメラが、狂ったように光る。
『エドワード様、真実は消去できません』
『“幼馴染パッチ”は、この国における最強のセキュリティです』
『現在、歴史的敗北を記録中です』
そのとき。
「――あ、たっくん」
菜摘が、くいっと拓海の顔を自分の方へ向ける。
「花火、あがったよ」
ドーン!!と大きな音。
夜空が、開く。
光が広がる。
「……たっくんさ」
一拍。
「エドワード君ばっかり見てないで、私と花火見ようよ」
「ほら、焼きそば。あーん」
「……あ、ああ」
拓海は、何の抵抗もなくそれを受け入れる。
「……もぐ、、……そうだな」
視線が、前を向く。
完全に、日常に、引き戻される。
「…………」
その後ろで、小柄な姫は。
自分のロジックが、
焼きそばという低次元な栄養素に敗北した事実を、静かに受け止めていた。
夜空には、花火。
その下で。
一人だけ、取り残されている。
■ ジョージの記録
【サエキ事変・花火編】
ハミルトン様、最新の執着OSを展開するも、ナツミの“17年物の地層(思い出)”により完全クラッシュ。
ナツミの距離感バグは、ハミルトン様の計算された密着を“子供のわがまま”へと再定義。
観測対象サエキは、最終的にナツミ側へ視線を固定。
当該現象は“日常による強制上書き”として分類される。
なお。
観測者のレンズには、花火の光に照らされながら、焼きそばを凝視するハミルトン様(敗北状態)が高解像度で記録された。
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悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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