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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:79

お世話係復活

萎縮シュリンクとは、過保護の越境によって一度未来の妻を逃がした西欧の魔王エドワードが、「また構いすぎれば逃げられる」という恐怖から全自動お世話機能を自主停止した結果、毛布一枚掛けるにも許可を求めるほど挙動不審となり、狂犬お嬢様(拓海)から「構うなとは言ってねぇ、勝手に決めんなっつっただけだwww」と過保護再開許可を与えられて爆速復旧する現象のことであるという話』



【ハミルトン別邸】

~挙動不審な過保護魔王~


十一月。

秋も深まり、朝晩の冷え込みが一段と厳しくなってきた頃。

拓海は無事、ハミルトン別邸での生活へ戻っていた。


食卓にはいつもの席があり、リビングの巨大ソファにはいつものジャージ姿が転がり、

廊下にはいつもの足音が響いている。

一見すれば、何もかも元通りだった。


ただし。

一人だけ、まったく元通りではない男がいる。


「…………」


西欧の過保護魔王、エドワード・ハミルトン。


(……構いすぎてはいけない)


(私がまた踏み込みすぎれば、拓海嬢は……)


脳裏に蘇るのは、拓海の姿が消えた別邸。


帰ってこない夜。

大学で、遠くから他の男たちと楽しそうに笑っていた拓海。


そして。


『触んな』


あの一言だけは、今も鮮明に残っている。


結果。

学習した男は、学習しすぎた。



【毛布】

~許可待ち~


夕方。

拓海はリビングの巨大ソファへごろんと横になり、テレビを眺めながら菓子を食べていた。


しばらくすると、


「うー……さみぃな」


ぶるっと肩を震わせる。


「…………」


エドワードが即座に反応した。


視線の先には、サイドボードに置かれた毛布。


毛布を見る。

拓海を見る。

もう一度、毛布を見る。


それから拓海。


「…………」


しかし動かない。


「…………?」


拓海が横目で見る。


「何してんの?」


「……いえ」


「?」


エドワードは、また毛布を見る。


「…………」


「エド」


「はい」


「毛布」


「…………」


「取ってくれよ」


「――よ、よろしいのですか!?」


「は?」


エドワードの顔は本気だった。


「私が……お掛けしても?」


「なんで毛布一枚でそんな重大決裁みたいになってんだよwww」


「ですが……!」


「寒いっつってんだろ!」


「はい!!」


許可が下りた瞬間、動きは秒速だった。


毛布を広げ、拓海の身体へふわりと掛ける。

しかも肩から足先まで、きっちり包む。


「…………」


「……暑くありませんか?」


「ちょうどいい」


「重くは?」


「平気」


「では……」


ほっ。


目に見えて安心するエドワードを見て、拓海が吹き出した。


「何安心してんだよwww」



【翌朝】

~ブラシとの攻防~


翌朝。

洗面所の鏡の前に立った拓海は、自分の頭を見て少し感心していた。


「……すげぇな今日」


寝癖が盛大に爆発している。

その後ろに立つエドワードも、当然それに気づいていた。


いつもなら即座にブラシを手に取り、拓海が何か言うより先に整え始めるところである。


ところが今日は。


右手が高級猪毛ブラシへ伸びる。


止まる。


引っ込む。


もう一度伸びる。


また止まる。


「…………」


そして再び引っ込む。


「おい」


「はい?」


「さっきから何回反復横跳びしてんだ、お前の腕」


「…………」


「ブラシ使いたいの?」


「……その」


エドワードが妙に小さくなった。


「拓海嬢の髪を、整えて差し上げたいのですが……」


「じゃ、やれば?」


「…………!」


「何」


「……本当に?」


「おう」


「私が触れても……?」


「いいって言ってんだろwww」


「では!!」


許可が下りた。


即座にブラシ確保。

そこからは一瞬で、いつものエドワードへ戻った。

黒髪を優しく梳き、絡まりを丁寧にほどきながら、少しずつ寝癖を整えていく。


「痛くありませんか?」


「平気」


「今日は少し乾燥していますね」


「ふーん」


「夜、トリートメントをいたしましょう」


「頼む」


「はい^^」


鏡越しに拓海が見る。


エドワードの顔。


(*´ω`)


「……嬉しそうだな」


「はい^^」


「そこ即答すんのかよ」



【玄関】

アドバイスと独断


さらに、大学へ出かける時間。

拓海は薄手のコートを羽織り、バッグを肩へ掛けた。


「よし。行くぞ、エド」


「はい」


二人で玄関へ向かう。


外では冷たい風が吹いている。

エドワードは拓海のコートを見た。


「…………」


言いたい。

明らかに薄い。


「……拓海嬢」


「ん?」


「本日はかなり冷え込みますので、そのコートでは……」


そこまで言って、止まる。


「…………」


「何?」


「……いえ」


「?」


「拓海嬢がお選びになったのであれば、私が口を挟むべきでは……」


「いや」


拓海が即答した。


「寒いなら言えよ」


「…………」


「なんで黙るんだよ」


「ですが……」


エドワードは困惑した顔で答える。


「私が服装にまで口を出せば、また拓海嬢を縛ることになるのではと……」


「…………」


拓海はしばらくエドワードを見た。

そして盛大にため息を吐く。


「お前さぁ」


「はい」


「極端なんだよ」


「…………」


拓海が指を一本立てる。


「アドバイスすんのと」


もう一本。


「俺の意思無視して、勝手に決めて押しつけんのは」


その二本をエドワードの前で振った。


「別だろwww」


「…………!」


エドワードの目が見開かれた。



【仕様確認】

~狂犬からのガイドライン~


「別にさ」


拓海は頭をがしがし掻きながら続ける。


「俺、構うなとは一言も言ってねぇぞ?」


「…………」


「髪やってくれんのも」


「……はい」


「服選んでくれんのも」


「はい」


「飯出してくれんのも」


「はい」


「毛布掛けてくれんのも」


「はい……!」


「別に嫌じゃねぇよ」


「…………!」


むしろ、拓海としてはかなり楽だった。


朝になれば髪を整えてもらえる。

服も考えてもらえる。

食事も用意される。

寒ければ毛布が出てくる。

自分でやらなくていいことが増えるので、普通に快適である。


「俺が嫌だったのは」


拓海がエドワードを見る。


「俺に何も聞かずに、俺のこと勝手に決めたこと」


「…………」


「そこだけ」


「……はい」


「だから」


にっと笑う。


「勝手に決めんなっつっただけだ (・∇・)」


「…………」


エドワードの内部システムが、猛烈な勢いで再計算を始めた。


【構う】許可。


【世話】許可。


【提案】許可。


【助言】許可。


【本人の意思を無視した決定】禁止。


「…………!」


理解完了。



【再起動】

~全自動お世話機能、復旧~


「では……!」


「なんだよ」


「髪を梳いても?」


「さっきやっただろwww いいよ」


「寒い時には毛布をお掛けしても?」


「おう」


「服を選んでご提案しても?」


「俺が嫌だっつったら別のにしろよ?」


「もちろんです!!」


「飯も?」


「栄養バランスを考えてご用意しても!?」


「肉減らさなきゃいいぞ^^」


「絶対に減らしません!!」


「よし」


「お茶を?」


「飲む」


「お菓子も?」


「食う」


「大学からお帰りになりましたら、私が……」


「待て待て待てwww」


拓海が慌てて止めた。


「?」


「一気に全部戻すな」


「ですが!!」


「ゼロか百しかねぇのか、お前はwww」


「拓海嬢ぉぉぉぉぉぉぉ(*´ω`)/////」


「なんで泣く!!」


「構ってもいいのですね……!!」


「そこまで感動することか!?」


「私には重要です!!」


「知らねぇよwww」



【修正版・過保護システム】

~ただし本人承認必須~


結局、その日の朝。

拓海が着ていた薄手のコートは、エドワードの助言によって、

もう少し厚手のものへ変更された。


「こちらの方が暖かいですよ」


「じゃ、こっちにする」


「はい^^」


強制ではない。

最後に決めたのは拓海だった。


帰宅してソファへ転がれば、


「拓海嬢、毛布を?」


「頼む」


「はい^^」


髪が乱れていれば、


「整えましょうか?」


「おう」


「はい^^」


腹が減れば、


「エドー。肉」


「すぐご用意します^^」


いつもの過保護。

いつものお世話。


けれど以前とは、ほんの少しだけ違う。


エドワードは一度、拓海を見る。


必要なら聞く。

提案する。

そして拓海が、


「おう^^」


と言えば、そこから全力で世話を焼く。


「…………」


ソファの上、

毛布へくるまった拓海が、ぽつりと呟いた。


「まあ」


「はい?」


「この方が楽だな^^」


「…………っ」


「エドが何もしてこねぇと、逆に調子狂うわ」


「拓海嬢ぉぉぉぉぉぉぉ(*´ω`)!!!」


「だから泣くなってwww」


一度、未来の妻を逃がした西欧の魔王は、ようやく学んだ。


『世話を焼くことと、縛ることは同じではない』


『提案することと、本人に代わって決めてしまうことも同じではない』


そして佐伯拓海という女は、自分のことは自分で選びたい。


ただし、

自分で選べる状態さえ守られていれば。


髪を梳かされるのも、服を選んでもらうのも、美味い飯を用意されるのも、

寒い時に毛布へ包まれるのも、


案外、嫌いではない。


というより。


「楽だから^^」


かなり気に入っている。


こうして、長い検疫期間を経た西欧の過保護魔王による全自動お世話システムは、


本人確認。

拒否権。

最終意思決定権。


以上の重要アップデートを実装した上で

無事、フルスペック運用へ復帰したのであった(笑)。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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