ハミルトン伯爵が幸せになるまで:75
これはエドワード嬉しい回
『反動とは、過労で倒れた西欧の過保護魔王を一晩中看病した狂犬お嬢様(拓海)が、その反動で今度は自分が発熱して寝込んだ結果、魔王が「私のせいだ」と絶望しながら全自動看護システムを限界稼働させ、半睡眠状態の未来の妻から「エドいるなら寝る^^」と無自覚な致死級安心認定を受けて再び涙腺を崩壊させる現象のことであるという話』
【ハミルトン別邸】
~逆転のダウン~
拓海による一晩の看病と。
「熱ある奴一人にしとくの嫌だった^^」
という、エドワードにとっては薬より遥かに効く特効薬によって。
西欧の過保護魔王はわずか一日で
ほぼ完全復活を遂げた。
ところが………
その翌々日の朝。
「ふぁ~~……」
朝食を終えソファから立ち上がった拓海が、
大きな欠伸をする。
「なんか今日、身体重ぇな……」
「拓海嬢?」
エドワードがすぐに反応した。
「お顔が少し赤いようですが」
「んー?」
自分の頬をぺたぺた触る。
「一晩起きてたから寝不足じゃね? 俺は平気──」
一歩踏み出す。
「──っと」
ぐらり。
視界が揺れた。
「拓海嬢!!」
床へ崩れ落ちるより早く、
エドワードの腕が身体を抱き止めた。
「おい、大丈夫だって」
「大丈夫ではありません!!」
「ちょっと立ちくらみ──」
そっと額へ手が触れる。
「…………」
明らかな熱。
エドワードの翡翠に近い青の瞳が
大きく見開かれた。
「……熱がある」
「そう?」
「拓海嬢……」
顔色が見る見るうちに青ざめる。
「……私の風邪が……」
「は?」
「私が……拓海嬢に……」
「いや、待て」
「寝室へ!!」
「話聞けってwww」
問答無用で抱き上げられた。
「歩けるぞ!」
「駄目です!!」
「だから大丈夫だって!」
「駄目です!!!」
病み上がりとは思えない勢いで未来の妻を抱え、
エドワードは寝室へ直行した。
◆
【自己弾劾】
~私のせいです~
ベッド。
毛布。
水。
体温計。
薬。
瞬く間に必要なものがすべて揃った。
「……私のせいです」
「違うって」
「私が倒れたりしたばかりに……」
「エド」
「拓海嬢に無理をさせて……」
「聞け」
「一晩中、私などのために……(´;ω;`)」
「だから!」
拓海が布団の中からエドワードの腕を、
ぺしっと叩く。
「俺が勝手にやったんだって」
「ですが……」
「お前が頼んだわけじゃねぇだろ?」
「…………」
「俺が勝手に夜更かしして、勝手に看病した。それだけ」
「しかし……」
エドワードが、
苦しそうに眉を下げる。
「私など放っておいて、ご自身のお部屋で眠ってくだされば……」
「それはそれで嫌だろ (・∇・)」
「…………」
停止。
「……え?」
「だから」
拓海は熱のせいで少し赤くなった顔のまま
けろり、と言った。
「熱出してうんうん唸ってる奴を、一人で寝かせんの嫌だったんだよ」
「…………」
「俺が自分でそうしたかったから、いただけ」
「…………っ」
「だから」
拓海が手を差し出す。
「ぐだぐだ言ってねぇで水くれ。喉渇いた」
「…………(´;ω;`)」
「泣くなって!!」
「拓海嬢……!」
「水!!」
「はいぃぃぃ!!」
◆
【全自動看護】
~限界稼働~
看病する側へ復帰。
その瞬間エドワード・ハミルトンの”全自動お世話システム”が
通常時の三倍で起動した。
「拓海嬢。水分をお取りください」
「おう」
「冷たい水、常温の水、白湯、果汁を薄めたものもございます」
「水でいい」
「何か口にできそうですか?」
「まだいい」
「お粥を用意いたしましょうか」
「いらね」
「スープは?」
「いらね」
「果物でしたら──」
「腹減ったら言うから!!」
「はい!」
氷枕交換。
汗確認。
室温確認。
加湿確認。
毛布調整。
「寒くありませんか?」
「平気」
「暑くは?」
「平気」
「頭痛は?」
「ねぇよ」
「喉は?」
「ちょっと」
「では主治医を……」
「風邪くらいで呼ぶなwww」
「念のため専門医も」
「増やすな!!」
「万一のことがあっては!」
「ねぇよ!!」
「拓海嬢!!」
「過保護!!」
いつもの光景。
ただし、
今日は拓海が布団の中。
エドワードがベッドサイド。
立場は完全に元通りだった。
◆
【安心認定】
~致死量~
昼を過ぎ薬が効き始めた頃。
「…………ふぁ」
拓海が小さく欠伸をした。
「眠くなってきた……」
「それが一番です」
エドワードが毛布を肩まで掛け直す。
「ゆっくりお休みください」
「んー……」
「私は部屋の外におりますので、何かございましたらすぐに……」
と言って立ち上がる。
その瞬間……
くい。
「……?」
袖が引かれた。
見ると、シーツからスッと伸びた手。
拓海の指が
エドワードの袖口を
”握っている”
「……拓海嬢?」
「…………」
とろんとした瞳。
熱のせいかいつもよりずっと無防備。
「どうされました?」
「……どこ行くんだよ」
「私は外におります。拓海嬢がゆっくり眠れるよう…」
「いい」
「?」
「ここにいろ」
「…………」
エドワード、停止。
「……よろしいのですか?」
「ん」
拓海はエドワードの袖を握ったまま
目を閉じかける。
「エドいるなら……寝る」
「…………え?」
薄く瞼が開く。
「お前がそばにいると」
眠そうに”へにゃり”と、笑う。
「なんか安心する^^」
「…………」
「おやすみ……エド……」
「…………」
やがて。
すぅ。
すぅ。
小さな寝息をたてて、拓海は完全に眠った。
けれど………
拓海の手はまだエドワードの袖を離していなかった。
◆
【絶対的信頼】
~告白よりも甘いもの~
「…………」
エドワードは動けなかった。
愛している。
好き。
あなたが必要。
そんな言葉ではない。
拓海は何一つ言っていない。
ただ。
『お前がいると安心する』
それだけ。
けれど、
それはエドワードが”ずっと欲しかったもの”だった。
自分がいることで、
拓海が安心して目を閉じられる。
無防備に眠ることができる。
「…………っ」
視界が滲んだ。
「…………(´;ω;`)」
泣くな。
声を出すな。
起こしてしまう。
必死に息を殺す。
それでも涙だけは止められなかった。
エドワードはベッド脇へ静かに椅子を引き寄せた。
袖を握っていた拓海の手を、
そっと自分の手で包む。
すると。
眠ったまま、”きゅ”っと、握り返された。
「…………っ」
危うく声が出るところだった。
「……おやすみなさい」
聞こえないほど小さな声。
「拓海嬢」
そのままエドワードは動かなかった。
一時間。
二時間。
拓海が安心して眠っていられるなら
いくらでもここにいる。
◆
【反動】
~看病の看病~
前夜
拓海はエドワードが一人になるのが嫌でベッドの横にいた。
今
エドワードは拓海が安心して眠れるようにベッドの横にいる。
どちらも相手から頼まれたわけではない。
『ただそこにいたいからいる』
「好き」も。
「愛してる」も。
まだない。
少なくとも拓海からは一度もない。
けれど。
相手が苦しんでいればそばにいる。
相手がいれば安心して眠れる。
それは言葉よりも先に二人の生活へ、
深く深く根を張り始めていた。
数時間後。
拓海がうっすら目を開ける。
最初に見えたのは、
ベッド脇。
自分の手を握ったまま静かに座っているいつもの男。
「…………エド」
「はい」
即答。
「……いた^^」
「はい」
「そっか」
安心したようにまた目を閉じる。
「じゃ、もうちょい寝る……」
「……はい^^」
再び眠る。
「…………」
そして。
西欧の過保護魔王はまた泣いた。
今度も。
音を立てずに
ただ嬉しそうに
未来の妻の手を握りながら。
看病されることを知った男と。
安心して看病されることを覚えた女。
恋愛自覚。
依然として圧倒的格差。
しかし。
相互依存度もはや測定不能。
冬のハミルトン別邸で
二人の距離だけが本人たちの自覚を完全に置き去りにしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




