第六十一話 「言語の”同期”は、新たな”バグ”を生む」という話
「」→日本語
『』→英語
→すみませんが脳内変換してください!
七月上旬。神社の長い石段。
蝉時雨が、降り注ぐ。
エドワードは。
185cmの拓海の、ガッシリした二の腕に――
白く細い指先を、深く食い込ませていた。
『……タクミ。確認だ』
見上げる。
自分より頭一つ高い頂点を、正確に。
『お前の脈拍』
一拍。
『毎分3回、上昇した』
『これは、私による密着が』
『……愛として、アップデートされた結果か』
『暑苦しいからだよ!!』
即答。
『てかよく数えてんな、おい!!』
『当然だ』
一切の迷いなし。
『私は、……360日以上』
『お前という構造を』
『近距離で、独占し続けてきた』
エドワードが、さらに距離を詰める。
ちょっと小柄な“最小単位”。
それが、拓海の懐にぴたりと収まる。
『……お前の重心、体温』
『微細な変化……私は、目を閉じても』
『三次元的に把握できる』
一拍。
これが、習熟(慣れ)だ』
『……キモいんだよ!!』
『視覚遮断するな!!』
「―よお! 拓海!」
声が落ちる。
石段を駆け上がってくる影。
佐藤だ。
170cmの“中音域”。
「って、何だそのチビ!?」
一拍。
「……めちゃくちゃ可愛いけど、ベッタリじゃねぇか!!」
「―サトウ」
エドワードが、顔を埋めたまま言う。
「オマエト、日本語デ、ハナス」
「……コレハ、ボク、ニトッテ」
「構造的妥協」
「……はぁ!?」
佐藤が目を見開く。
「日本語喋れんのかよ!? てか内容がムカつく!!」
『当然だ。私はイギリスにいる時から』
『毎日18時間タクミの寝言を解析し、OSを書き換えてきた』
エドワードが、スッと動く。
拓海の背後へ。完全に隠れる。
指だけ、出す。
『お前のような低解像度の語彙しか持たない』
『不純物』
一拍。
『私のサエキ専用辞書で、論破してやる』
「サトウ、オマエ、キエロ」
「……隠れてブツブツ言ってんじゃねぇよ!!」
「卑怯な姫かよ!!」
佐藤が騒ぐ。
「俺じゃねぇよ!!」
拓海が叫ぶ。
「ジョージの変なノートのせいだっつってんだろ!!」
後ろで。
ジョージが誇らしげに頷く。
『一年にわたるサエキ学』
『言語の壁、……完全に突破』
「あ、でも」
菜摘が、スイカの種を飛ばしながら言う。
「そんなに詳しいならさ」
「たっくんが“本気で怒る前”の癖も、知ってるよね?」
「……ミミ……?」
エドワードの動きが、止まる。
『耳の後ろ?そんな微細な変化』
『私の観測ログには、存在しない』
キョトンとした顔をするエドワードを見た菜摘。
「……え、知らないの?」
菜摘が、にやっと笑う。
「ここ、ピクッてなるんだよ」
一拍。
「……あ、今なってる」
「……ッ!!」
エドワードの顔が、崩壊する。
拓海の耳へ、視線が集中する。
『タクミ!!なぜだ!!』
『なぜ、私の知らない出力をナツミの前で披露する!!』
『…私の習熟が、崩壊するだろう!!』
『……知らねぇよ!!』
「誰でも怒りゃどっかピクピクするだろ!!」
ジョージのペンが走る。
【サエキ事変・日本遠征七日目】
ハミルトン様、一年に及ぶ執着観測を、幼馴染17年の蓄積により完全否定される。
英語による完全同期は維持されるも、……日本語領域において致命的な情報欠落を確認。
これより、『耳裏・24時間監視』という新たなバグが発生。
観測対象、さらに深部へ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




