第六十二話 「浴衣の”摩擦係数”は、一瞬の”雑”に敗北する」という話
夏休み編はまだまだ続く・・・
「」→日本語
『』→英語
→すみませんが脳内変換してください!
七月上旬、夕刻。
佐伯家の居間は
一人の英国貴族の「こだわり」によって停滞していた。
『タクミ。確認だ』
静かな声。
『この紺色の帯』
一拍。
『…左側の張力が、0.2ニュートン不足している』
『これでは、人混みという外圧に対し私の腰の構造的耐性が、維持できない』
『知るかよ!!』
即ツッコミ。
『3分で終わる着付けに、何分かけてんだよ!!』
拓海は、背後からエドワードを羽交い締めにしていた。
185cmの巨躯が、165cmの華奢な少年を包み込む。
完全に―捕獲。
『……タクミ。苦しい私のウエストの権限が』
『お前の腕力で、物理的に占拠されている』
『もっと優しく、アップデートしろ』
『注文が多いんだよ!!』
『黙ってろ!!』
そのとき、ガラッと音がして、襖が開く。
「たっくーん! 準備できた?」
浴衣姿の菜摘。
その後ろに、佐藤。
「あ、エドワード君の帯、やってあげてるんだ?」
「…………っ!!」
佐藤、停止。
夕闇の和室。
大男が美少年を後ろから抱え込み。
腰を、ゴソゴソと―
「……あ」
一歩、下がる。
「ごめん!邪魔、だったか?」
佐藤が静かに、襖を閉めようとする。
『待て!!』
『違う!! 帯だ!!帯を締めてるだけだ!!』
拓海の絶叫。
だが。
「えー?」
菜摘、無視してズカズカと侵入。
「たっくん、それキツすぎない?」
「焼きそば食べられないよ?」
「……ナツミ」
エドワードが、冷たく言う。
「現在タクミ、ハ」
「ボク、ノ中心核、独占ダ」
「コレハ、一年間ノ、信頼ノ結果」
一拍。
「外部ユニット入ル隙間ハナイト…」
「はいはい、ちょっと失礼~!」
―遮断。
菜摘は、割り込んで、
拓海の手を、ひょいっと退ける。
そして、背後へ回って、
「――よいしょっと」
グイッっと力任せ。
菜摘のおばあちゃん直伝の結び。
一瞬で終わった。
『……なッ!?』
エドワードの世界が、崩壊する。
『この、簡素な構造私の一時間の解析が無に……』
「はい、できた!」
菜摘は満足し、胸元を整え、肩をポン、とたたく。
「ほら、かっこいいよ!」
一拍。
「…きついとお腹空いた時、大変でしょ?」
『ナツミ…』
エドワード、静かに敗北。
『お前の雑というアルゴリズム認めざるを得ない……』
その横で、佐藤が復帰。
そっと、拓海の肩を叩く。
「……拓海」
一拍。
「お前あんな”お姫様”に、腰の権限とか言われて……」
「……よく耐えられるな」
さらに一拍。
「やっぱ、お前ら……そういう……」
「違ぇよ!!」
即否定。
「物理の話だよ!!」
「……サトウ」
エドワードが、動く。
浴衣の裾を掴み、拓海の背後へ完全に隠れる。
「ボクハアエテ。タクミ、隣。迷子トシテ。アップデート完了」
「再定義、サレタ」
一拍。
「オマエガ、ハイル、空隙、ナイ」
「……サヨナラ。デリートシロ」
「おい!隠れて言ってんじゃねぇよ!!」
「卑怯な姫かよ!!」
ジョージのペンが走る。
【サエキ事変・夏祭り直前】
ハミルトン様、……『完璧な張力』という自閉的ロジックを、……ナツミの『日常』により完全粉砕。
英語による最適解は維持されるも、……現実環境において無効化を確認。
サトウの脳内には、修復不能な誤解が蓄積。
ハミルトン様、……『迷子(姫)』として戦場へ移行完了。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




