ハミルトン伯爵が幸せになるまで:70
まいにちあついっすね
『空白とは、最終学年へ進んだ狂犬お嬢様(拓海)が、修士課程へ進む婚約者を前に「一年あるなら日本帰ろっかな^^」と何気なく口にした結果、西欧の過保護魔王が十四日すら耐えられなかった過去と「一年も放流すれば別の男へ乗り換えるかもしれない」という極めて現実的な危機予測を同時再起動し、大学の廊下で未来の妻の足元へ縋りつきながら「一年は無理ですぅぅぅ(´;ω;`)」と涙腺を崩壊させる現象のことであるという話』
【大学キャンパス】
~最終学年の始動~
秋。
英国の大学制度において
学部三年生は、いよいよ卒業を控えた最終学年。
新学期を迎え、
秋晴れのキャンパスを歩く二人の空気は完全に対照的だった。
「とうとう三年かー。あと一年で卒業だな^^」
「…………」
「エド?」
「……拓海嬢は、来年卒業されるのですね」
「おう」
「私は……その後、さらに一年……」
「修士だろ? 頑張れ^^」
「…………」
エドワードの足が止まった。
「?」
拓海も振り返る。
「どうした?」
「…………」
待て。
拓海嬢は来年学部を卒業する。
自分はその後さらに一年。
修士課程へ進む。
つまりその一年。
拓海嬢は。
「…………」
「エド?」
どこにいる?
◆
【地雷】
~悪気ゼロの帰国案~
「そういやさ」
「……はい」
「お前、修士一年あるんだろ?」
「ええ」
「じゃ俺」
拓海は秋空を見上げながら、
実に軽く言った。
「卒業したら一年くらい、日本帰ろっかな^^」
「…………」
停止……
エドワード完全停止。
「エド?」
「…………に」
「?」
「……日本?」
「おう」
「…………一年?」
「まあ一年丸々じゃなくてもいいけど」
拓海は、何でもないことのように続ける。
「久しぶりに実家でゴロゴロするのもいいし」
「…………」
「日本でなんか仕事してもいいし」
「…………」
「お前も大学と公務で忙しいだろ?」
「…………」
「一年なんてすぐじゃん^^」
エドワードの翡翠色に近い青の瞳へ
みるみる涙が溜まった。
「……拓海嬢」
「なんだよ」
「それは……」
「?」
「困ります……(´;ω;`)」
「なんで?」
「困るからです!!」
「説明になってねぇよwww」
◆
【危機予測】
~今回は割と正しい~
「じゃあ週末とか長期休みに日本来れば?」
「日本ですよ!?」
「飛行機あるじゃん(・∇・)」
「毎週日本へ行けと!?」
「お前なら来るだろ」
「行きますけど!!」
行くんだ。
だが、問題はそこではない。
「拓海嬢」
「ん?」
「一年も日本にいたら……」
「うん」
「……他の男性と仲良くなるではありませんか」
「そりゃ友達くらいできるだろ」
「やはり!!」
「何がだよ」
「そして!」
エドワードが拓海の両肩を掴む。
「その男性の方が私より良いと思ったらどうするのですか!!」
「…………」
拓海が首を傾げた。
「んー」
「…………」
「そんとき考える^^」
「──ほらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!(´;ω;`)」
「うるせぇ!!」
最悪の回答だった。
◆
【佐伯拓海】
~婚約は婚約~
だが拓海に悪気はない。
むしろ極めて真面目に考えた結果だった。
「だって俺、まだお前と婚約してるだけだろ?」
「…………」
致命傷。
「結婚したわけじゃねぇし」
「…………」
追撃。
「結婚する前に、エドより俺に合う奴がいたら」
「…………」
「そっちの方がいいかなーって思う可能性はゼロじゃなくね?^^」
「…………」
エドワードの顔から、
完全に血の気が引いた。
「た、拓海嬢……」
「なんだよ」
「私は……」
声が震える。
「私はもう、拓海嬢以外と結婚するつもりなど一切ありません……」
「知ってる」
「拓海嬢も同じではないのですか……?」
「いや、未来のことなんか分かんねぇじゃん(・∇・)」
「…………」
拓海にとって
婚約とは現時点における結婚予定。
エドワードにとって
婚約とは永遠の契約。
根本的な認識に致命的な差があった。
◆
【さらに最悪の未来】
~日本には父がいる~
しかも、
エドワードにはもう一つ重大な懸念があった。
「……お父上も」
「親父?」
「拓海嬢が日本へ戻れば……」
「?」
「私より日本にいる男性との結婚を勧めるのでは……?」
「…………」
拓海が少し考える。
そして、
「あー」
「…………」
「親父ならやりそう^^」
「(´;ω;`)ブワッ」
「なんで泣くんだよ!!」
「やはり帰してはいけないではありませんかぁぁぁぁ!!」
「俺は荷物か!!」
「お父上は私を認めてくださったとはいえ!! 娘を地球の反対側へ嫁がせるより、
日本に残したいに決まっています!!」
「まあ、それはそうだろうな」
「拓海嬢!!」
正論。
あまりにも正論。
普段ならば
過保護魔王の妄想として一蹴される案件。
だが。
今回ばかりは本人が可能性を認めている。
◆
【廊下の惨劇】
~伯爵、崩壊~
そして、
エドワードの脳内に最悪の未来予測が完成した。
拓海嬢、日本へ帰国。
↓
和也。
『別に婚約したからって、絶対あいつと結婚しなきゃならんわけじゃないぞ』
↓
拓海。
『そうなの?(・∇・)』
↓
気の合う日本人男性と遭遇。
↓
『飯行く?』
『肉?^^』
『焼肉』
『行く!!^^』
↓
『こいつエドより放っといてくれるし、楽だな^^』
↓
婚約解消。
「…………」
耐えられなかった。
ガシッ!!
「うおっ!?」
エドワードがその場で膝をつき
拓海の足元へ縋りついた。
「拓海嬢ぉぉぉぉぉ……!!」
「おい!!」
「お願いですから日本へ帰らないでくださいぃぃぃぃ(´;ω;`)!!」
「廊下だぞ!!」
「一年は無理です!!」
「足離せって!!」
「嫌です!!」
「伯爵!! 周り見てみろ、伯爵!!」
「伯爵でも無理なものは無理ですぅぅぅぅぅ(´;ω;`)!!」
由緒正しきハミルトン伯爵。
英国社交界でも名の知れた若き当主が
大学の廊下で日本人留学生の足元へ縋りつき泣いている。
通り過ぎる学生。
教授。
職員。
全員二度見。
そこへ
ジョージがやってきた。
「……何やってるの?^^」
「助けろジョージ!!」
「何があったの?」
「拓海嬢が卒業後一年、日本へ帰ると!!」
「ああ」
「しかも! 日本で私より良い男がいたら乗り換える可能性を否定しない!!」
「…………」
ジョージが拓海を見る。
「本当?」
「まあ、まだ婚約だし^^」
「…………」
もう一度。
泣き崩れる親友を見る。
「ハミルトン」
「なんだ……(´;ω;`)」
ジョージは、
珍しく真顔で言った。
「今回は君が正しいと思うよ^^」
「だろう!?」
「お前まで何言ってんだよ!!」
◆
【条件闘争】
~未来の妻・確保作戦~
周囲の視線が痛い。
あまりにも痛い。
「分かった!!」
拓海がエドワードの肩を掴んだ。
「まだ決めねぇから!!」
「……本当ですか?」
「考える!!」
「英国へ残る選択肢も!?」
「あるある!!」
「卒業後もハミルトンホールで暮らす選択肢も!?」
「考えるから!!」
「一年間、未来の伯爵夫人として実務を本格的に担当していただくという選択肢も!?」
「話増えてねぇか!?」
「拓海嬢!!」
「分かった分かった!! だから足離せ!!」
「……約束ですよ?」
「はいはい!」
ようやくエドワードが立ち上がった。
ハンカチを取り出し涙を拭く。
数秒。
「では」
「?」
「卒業後一年間の英国滞在計画について、早急に草案をまとめます^^」
「…………」
復活。
早い。
「お前」
「はい?」
「さっきまで泣いてたよな?」
「何のことでしょう^^」
「切り替え早ぇぇぇぇぇよ!!」
ジョージが深々とため息をついた。
「でもさ、拓海」
「ん?」
「ハミルトンより条件いい男って、探すの結構大変じゃない?^^」
「あー」
拓海が真面目に考える。
「確かにな」
エドワードの耳がぴくりと動く。
「金あるし」
「…………」
「飯うまいし」
「…………」
「家でかいし」
「…………」
「俺が何やってても最終的には許すし」
「…………」
「世話全部してくれるし」
「…………」
拓海が。
にっと笑った。
「まあ、エドよりいい奴ってそうそういねぇか^^」
「拓海嬢……!!(*´ω`)」
一瞬で全回復。
「でも、いたら考える」
「──拓海嬢ぉぉぉぉぉぉぉぉ(´;ω;`)!!!!」
「ははははは!!」
三年生。
最終学年。
卒業まであと一年。
そして、西欧の過保護魔王による。
【卒業後・未来の妻英国残留計画】
は、
新学期初日から”最優先案件”として。
爆速で始動したのであった(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




