ハミルトン伯爵が幸せになるまで:65
クリスマスパーティー回(`・ω・´)
良かったねぇエドワードw
『定着とは、一年前には狂犬お嬢様(拓海)をクリスマス舞踏会へ誘うだけで決死の覚悟を必要とした西欧の過保護魔王が、正式な婚約者となった二年目には本人から「今年も一緒に行くだろ?^^」と当然のように予定へ組み込まれ、自分とのクリスマスが彼女の日常へ標準実装された事実に感極まる現象のことであるという話』
【ハミルトン別邸】
~二年目のクリスマス~
十二月。
ロンドンの街が、白銀とイルミネーションに包まれる季節。
ハミルトン別邸にも大きなクリスマスツリーが飾られ、暖炉の火が赤々と燃えていた。
そして
エドワードにとって、この時期には忘れられない思い出がある。
一年前
まだ拓海へ片思いをしていた頃。
クリスマス舞踏会へ誘うだけで、人生最大級の勇気を必要とした。
『拓海嬢。もしよろしければ、クリスマスの舞踏会へ私と一緒に参加していただけませんか……』
『飯ある?』
『あります』
『行く^^』
それだけで、
当時のエドワードは、数日間まともに眠れないほど浮かれていた。
そして今年。
「拓海嬢」
「ん?」
エドワードは、少しだけ緊張しながら口を開いた。
「今年のクリスマス舞踏会なのですが」
「ああ」
拓海は菓子を食べながら、当たり前のように言った。
「行くだろ?(・∇・)」
「…………」
「去年も行ったじゃん」
「……ええ」
「今年は俺、お前の婚約者なんだから。一緒に出るんだろ?」
「…………」
エドワードの動きが止まった。
「エド?」
「…………」
「おーい」
翡翠に近い青の瞳がゆっくりと潤んでいく。
「……はい」
「?」
「もちろんです……(*´ω`)」
「なんで泣きそうなんだよ」
拓海にとっては、ただの事実確認である。
正式に婚約した。
去年も一緒に行った。
なら今年も一緒に行く。
それだけ。
しかし、
エドワードにとって。
『今年も一緒に行く』
という予定が、拓海の中に最初から存在していたこと自体が、
何よりも嬉しかった。
◆
【十二月二十四日・ハミルトンホール】
~去年と同じ場所、違う立場~
舞踏会当日。
ハミルトンホールの大広間は、一年前と同じように華やかな光に満ちていた。
巨大なクリスマスツリー。
きらめくシャンデリア。
生演奏のワルツ。
色鮮やかなドレス。
磨き上げられたグラス。
だが二人を迎える周囲の視線だけは、
明らかに去年とは違っていた。
一年前。
エドワードは、
『若きハミルトン伯爵が連れてきた謎の美しい日本人令嬢』
と好奇の目を向けられていた。
今年は違う。
「ハミルトン伯爵、佐伯嬢。お待ちしておりました」
「今年もお二人揃って素敵ですわ」
「ぜひ、最初のワルツをお二人で」
誰もが拓海を当然のように
”ハミルトン伯爵の正式な婚約者”
として扱う。
そしてその言葉を聞くたび。
「…………(*´ω`)」
エドワードの口元は緩んだ。
「エド」
「はい?」
「またニヤニヤしてるぞ」
「していません」
「してるって」
「していません」
「口元すげぇぞ^^」
「気のせいです」
そんなやり取りをしているうちに
ワルツが始まった。
拓海が何の迷いもなく、
エドワードへ手を差し出す。
「エド」
「はい?」
「踊るぞ^^」
「…………」
一年前はエドワードの方から、
震える手で
『一曲、お願いできますか』
と頼んだ。
今年は拓海の方から、
当たり前のように手を差し出している。
「……はい」
その手を取る。
「喜んで」
ワルツが始まる。
去年と同じ会場。
去年と同じ二人。
けれど
エドワードの中では
すべてが違っていた。
一年前は
隣を歩けるだけで嬉しかった。
今年は
婚約者として、拓海と踊っている。
「…………」
「エド?」
「何でもありません^^」
「変な奴」
◆
【舞踏会・中盤】
~一年前の事故現場~
ひとしきり踊り
食事も進み
拓海が皿いっぱいのローストビーフを平らげた頃。
ふと
窓の外へ視線を向けた。
「エド」
「はい?」
「あれ」
「?」
拓海が指差す。
庭園の向こう、
一本の大きな木。
「あそこ、去年俺寝てたよな^^」
「…………」
エドワードの笑顔が止まった。
「……よく覚えていらっしゃいますね」
「そりゃ覚えてるぞ」
「…………」
「酒飲んで暑くなってさ。外出たら、ちょうどいい木があったから^^」
「木は寝床ではありません」
「気持ちよかったぞ?」
「二度と登らないでください」
「今年は登らねぇよ」
「本当ですか?」
エドワードが即座に食いつく。
拓海は、そんな様子がおかしかったのか笑った。
「だって今年はエドいるし」
「…………」
エドワードの動きが止まった。
「……どういう意味でしょう」
「眠くなったら、お前に言えばいいじゃん」
「…………」
「部屋連れてってくれるだろ?」
「…………」
「エド?」
「…………(*´ω`)」
「またニヤニヤしてるぞ」
「していません」
「してる」
「していません」
拓海にとっては
ただの生活上の話だった。
去年。
眠くなった。
適当な木を見つけた。
登った。
寝た。
今年。
エドワードがいる。
眠くなったら言う。
任せる。
それだけ。
だがエドワードにとっては
自分が
拓海の中で
『困った時に頼ればいい人』として、完全に標準装備された瞬間
だった。
◆
【深夜】
~今年は木に登らない~
舞踏会が終盤へ差しかかった頃、
拓海の動きが、少しずつ鈍くなってきた。
「…………」
「拓海嬢?」
「んー……」
「眠いのですか?」
「ちょっと」
エドワードの瞳が輝いた。
「お部屋へ戻りますか?」
「おう」
即答。
一年前なら気づいた時には消えていた。
探し回った末
木の上で寝ている拓海を発見し
心臓が止まりそうになりながら回収した。
今年は。
「エド」
「はい?」
「眠い」
「はい^^」
それだけ。
拓海は、
何の疑問もなくエドワードの隣を歩いている。
「…………」
「なんだよ」
「いえ」
「?」
「……嬉しいだけです」
「何が?」
「何でもありません^^」
廊下を歩く二人。
途中
拓海が欠伸をする。
「ふぁ……」
「もう少しですよ」
「おう」
それを見ながら
エドワードは一年前の自分へ教えてやりたくなった。
お前が舞踏会へ誘うだけで死にそうになっていた女性は
一年後、正式な婚約者になり
クリスマスを一緒に過ごすことを
最初から当然の予定として考えている。
そして。
眠くなれば
木へ登る代わりにお前へ言う
『部屋連れてって^^』
と。
「エド」
「はい?」
「来年もこれ来んの?」
「…………」
エドワードの足が止まった。
拓海が眠そうな目で振り返る。
「来年もクリスマスあるだろ?」
「…………」
「一緒に来るんだよな?」
「…………」
「?」
「もちろんです!!」
「声でけぇよ」
「すみません……!」
拓海は再び欠伸をした。
「じゃ、来年も肉あるといいな^^」
「ありますよ」
「よし^^」
恋愛ゲージは相変わらずほぼ初期値
だが
【エドワードとクリスマスを過ごす】
という項目だけは
いつの間にか拓海の日常へ
完全にデフォルト設定として定着していた
その事実だけで
西欧の過保護魔王にとっては
充分すぎるほど
幸せな二年目のクリスマスなのであった(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




