ハミルトン伯爵が幸せになるまで:64
拓海のバンパイアコスは見たいな
『不在とは、大学のハロウィンパーティへ行く気満々の狂犬お嬢様(拓海)を阻止したい西欧の過保護魔王が、よりによって当日に外せない伯爵家の公務を抱えて同行不能となり、親友を監視役として送り込んだものの、会議中に届く楽しそうな仮装写真を見て「帰りたい(´;ω;`)」と業務効率を著しく低下させる現象のことであるという話』
【ハミルトン別邸】
~ハロウィン前の尋問~
二年生の秋。
普段から学内ファイアウォールを限界まで展開し、
拓海へ近づく学生たちへ無言の絶対零度を浴びせ続けているエドワードに
最大級の試練が訪れた。
「エドー」
「はい?」
「今度、大学のハロウィンパーティ行くぞ^^」
「…………」
一拍。
エドワードの表情が変わった。
「誰が主催ですか」
「知らん」
「参加人数は?」
「知らん」
「男性は?」
「いるんじゃね?」
「酒は出ますか」
「たぶん?」
「何時まで?」
「知らん」
「会場は?」
「大学」
「警備体制は?」
「知らんって言ってんだろwww」
拓海は呆れたように笑った。
「でも楽しそうじゃん^^」
「行ってはいけません」
「なんで?」
「危険です」
「大学のパーティだぞ?」
「ハロウィンです!!」
「だから何だよwww」
エドワードの中では、
【仮装】
【夜】
【酒】
【大人数】
【知らない男】
という危険パケットが、猛烈な勢いで同時起動していた。
「では、私も同行します」
「好きにすれば?」
「もちろんです(`・ω・´)」
即座に解決……するはずだった。
背後から
秘書の冷静な声が落ちた。
「旦那様」
「何です?」
「その日は年に一度の重要理事会がございます」
「…………」
「午後から夜までの予定です」
「延期してください」
「できません」
「では欠席を」
「絶対にできません」
「…………」
拓海がエドワードを見る。
「じゃ俺だけ行くわ^^」
「いやあああああああああ(´;ω;`)!!」
「なんで泣くんだよ!!」
◆
【当日・夕方】
~破壊力抜群の吸血鬼~
そして、ハロウィン当日。
友人たちと待ち合わせる時間が近づいた頃。
拓海の部屋の扉が開いた。
「エドー」
「はい?」
「どう?^^」
振り返ったエドワードが。
完全に固まった。
「…………」
黒を基調とした細身のパンツ。
身体の線を綺麗に見せる、上品なベストとシャツ。
肩から流れる長いマント。
首元には赤い石を使った装飾。
普段より少しだけ強く整えられた目元。
フリルや可愛らしさへ寄せた仮装ではない。
どちらかと言えば
若き貴公子を思わせる、麗しい男装系の吸血鬼。
「どう? 似合うか?^^」
「…………」
「エド?」
「…………」
「おーい」
エドワードの翡翠に近い青い瞳が、ゆっくり潤んでいった。
「……行かないでください(´;ω;`)」
「なんでだよwww」
「その格好で、他の男がいる場所へ行くなど言語道断です!!」
「意味わかんねぇ!」
「絶対に目立ちます!」
「仮装だから目立っていいんだろ?」
「そういう問題ではありません!!」
「じゃ何の問題なんだよwww」
答えは簡単だった。
『エドワードが嫌』
それだけである。
しかし
どう頑張っても今日は理事会から逃げられない。
そこで。
エドワードの視線が、ちょうど廊下を通りかかった友人へ向いた。
「ジョージ」
「嫌だよ^^」
「まだ何も言っていない」
「どうせ『拓海嬢と一緒に行って監視しろ』でしょ?」
「…………」
「嫌だよ^^」
「今夜の酒代をすべて出す」
「…………」
ジョージの足が止まった。
「全額だ」
「何時集合?^^」
「お前、チョロいな」
「拓海に言われたくないね^^」
こうして、またしても。
エドワード・ハミルトン外付け監視システム【George】
が緊急配備された。
◆
【理事会会場】
~業務効率、絶賛崩壊中~
その夜。
長いテーブルを囲み
重役たちが次々と資料を確認していく。
本来なら。
若きハミルトン伯爵は、誰より冷静に議題へ向き合っているはずだった。
だが。
「…………」
書類を見る。
時計を見る。
書類を見る。
スマートフォンを見る。
時計を見る。
スマートフォンを見る。
「旦那様」
「はい」
「こちらの議案についてですが」
「ええ」
「……聞いておられましたか?」
「聞いています」
「では内容をご確認ください」
「…………」
「聞いておられませんね」
「…………」
その時、
ピコン。
スマートフォンが震えた。
反応速度、0.01秒。
画面には、ジョージからのメッセージ。
『拓海、めちゃくちゃ楽しんでるよ^^』
「…………」
添付写真を開く。
「…………」
グラスを片手に黒いマントを翻し、
満面の笑顔を浮かべる吸血鬼拓海。
その周囲には、大学生たち。
当然
男もいる。
「…………」
エドワードの眉間へ、深い皺が刻まれた。
さらに
もう一件。
『仮装が好評で、周りに人集まりまくってる^^』
「…………」
さらに写真。
今度は
拓海の両腕へ、仮装した女子学生が一人ずつ腕を絡めている。
「…………?」
エドワードが画面を拡大した。
女性。
女性。
さらに後ろにも女性。
『サエキ、一緒に写真撮って!』
『いいぞー^^』
『吸血鬼すごく似合ってる!』
『ガハハ! ありがとな^^』
「…………」
ジョージから追加。
『朗報。男は今のところあんまり近づいてないよ^^』
「……それは結構です」
続けて。
『ただし女の子には異常にモテてる^^』
「…………」
『さっきから一人、ずっと拓海の隣にいるよ』
「ジョージ」
電話をかける。
すぐに出た。
『なに?^^』
「今すぐ離してください」
『女の子だけど?』
「関係ありません」
『ファイアウォール性別不問なんだ^^』
「黙れ!!」
近くにいた重役たちが、一斉に顔を上げた。
「…………」
「…………」
エドワードは静かにスマートフォンを伏せた。
「……失礼しました」
数秒後、
小さく呟く。
「…………帰りたい……(´;ω;`)」
秘書が即答した。
「理事会は、まだ三時間ございます」
「…………(´;ω;`)」
◆
【深夜・ハミルトン別邸】
~無事帰還~
日付が変わる少し前。
静かな玄関ホール。
エドワードはなぜかそこに立っていた。
理事会終了後。
ほぼ最速で帰宅。
コートすら脱がず玄関で待機。
そして……
ガチャリ。
「ただいまー^^」
「……おかえりなさい」
拓海が帰ってきた。
マントを腕に引っかけ、
髪は少し乱れ、
片手には、カボチャ型の菓子バケツ。
顔には
楽しかったことが一目で分かる笑顔。
「エドー! めちゃくちゃ楽しかったぞ!^^」
「……そうですか」
「仮装コンテストで賞もらった!」
「何の賞です?」
「なんか『一番カッコいい』みたいなやつ^^」
「…………」
予想通り。
「あと写真いっぱい撮られた!」
「…………」
「女の子に連絡先も聞かれたぞ^^」
「…………」
「エド?」
「次回は絶対に私も行きます」
「好きにしろよ(・∇・)」
そして
拓海がカボチャ型のバケツをごそごそ探る。
「ほら」
「?」
「菓子いっぱいもらったから、エドにもやる^^」
差し出されたのは、小さな包み菓子。
「…………」
エドワードの視線が止まる。
「いらね?」
「……いただきます」
受け取る。
「これうまかったぞ^^」
「そうですか」
「おう!」
「…………」
「エド?」
「……拓海嬢が楽しかったなら」
一度、小さく息を吐く。
「……よかったです(´・ω・`)」
「なんだよその顔www」
「何でもありません」
そう言いながら
エドワードは拓海からもらった菓子を、大事そうに手の中へ収めた。
行かせたくなかった。
心配だった。
理事会中ずっと気になって仕方がなかった。
男に囲まれるのも嫌だった。
女に囲まれるのも、結局嫌だった。
だが、
拓海は無事帰ってきた。
楽しそうに笑っている。
そして
自分の分の菓子まで持って帰ってきた。
それだけで。
【嫉妬】
【焦燥】
【不安】
【帰りたい】
で崩壊寸前だった過保護魔王の情緒は
「エド。それ食わねぇなら俺食うぞ?」
「食べます!!」
「じゃ早く食えよwww」
一瞬にして1200%完全復旧。
こうして
西欧の過保護魔王が不在の間だけ発生した、大学ハロウィンパーティは、
狂犬お嬢様本人。
【評価:めちゃくちゃ楽しかった^^】
ジョージ。
【評価:酒代タダで楽しかった^^】
エドワード。
【評価:二度と私抜きで行かせない(´;ω;`)】
三者三様の結果を残し。
ハロウィンの夜は、無事終了したのであった(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




