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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:59

まちがってのせてた(´;ω;`)

残留リテンションとは、過労死寸前のデスマーチを突破してローマへ駆けつけた西欧の過保護魔王エドワードが、ようやく婚約後初の「二人きりの旅行♡」を開始できると思った矢先、狂犬お嬢様(拓海)の悪気ゼロな「三人の方が面白いじゃん^^」によって、自ら送り込んだ親友ジョージの帰国便を連日キャンセルさせられ、結局最初から最後まで三人旅行として再コンパイルされる現象のことであるという話』



【ローマ郊外・プライベートヴィラ】

~魔王、ついに合流~


ほぼ不眠不休。

日本へ二週間も逃亡した結果として積み上がった、一か月分の仕事。


それを嫉妬と焦燥と執念だけで強引に片付けたエドワード・ハミルトンは、

予定を半日以上も前倒しし、ついにローマ郊外のヴィラへと辿り着いた。


車が門をくぐる。

美しく整えられた庭園。

その向こうには、自分が選び抜いたプール付きのヴィラ。


そして………


「エドー!!^^」


「拓海嬢……!!」


テラスから拓海が走ってくる。

エドワードの血走っていた翡翠の瞳が、一瞬で潤んだ。


「お待たせしました……!」


「おー! はやかったな! 昨日電話したばっかじゃん^^」


「ええ……死ぬ気で終わらせました……」


「寝た?」


「二時間ほど」


「寝ろよwww」


「問題ありません。拓海嬢に会えましたから……(*´ω`)」


「意味わかんねぇwww」


会えた。

ようやく会えた。


そして何より。


これで

ようやく、二人きりである。


エドワードは、ゆっくりと顔を上げた。


少し離れたテラスで、ワイングラスを傾けている男を見る。


「ジョージ」


「ん?」


「ありがとう。本当に助かった」


「どういたしまして^^」


エドワードは晴れやかな笑顔を浮かべた。


「帰りの飛行機はこちらで手配してある」


「…………」


「今日の夕方便だ。空港までの車も用意してある」


「ずいぶん早いね^^」


「ロンドンへ到着後の車も手配済みだ」


「用意周到だね^^」


「では、気をつけて」


完璧。

一分の隙もない強制送還計画である。


ところが。


「なんで?(。´・ω・)?」


「…………」


エドワードの笑顔が止まった。


拓海が、本気で不思議そうな顔をしている。


「ジョージ帰んの?」


「……ええ」


「なんで?」


「役目を終えましたので^^」


「役目?」


「貴女を一人にしないために、私が同行を頼んだのです」


「でもジョージも夏休みだろ?」


「まあね」


「じゃ、いてもいいじゃん^^」


「…………」


「明日、三人で海行こうぜ!」


「いいね^^」


「ジョージ昨日も海行きたいって言ってたじゃん」


「言ったね^^」


「じゃ決まり!」


「決まっていません。」


拓海が振り返る。


「なんで?」


「…………」


「エド?」


「……ジョージにも予定があります」


「ないよ^^」


「作れ。」


「横暴だね^^」


「プールもあるし、飯もうめぇし、三人の方が面白いじゃん^^」


「…………」


拓海がニッと笑う。


「な? エド^^」


「…………はい……(´;ω;`)」


言えなかった。


『この旅行は…

本来

婚約後初めての、拓海嬢との二人きりの旅行として企画したものなのです。』


などとは…

どうしても言えなかった。



【その夜】

~送り込んだ男が帰らない~


深夜。


コンコン。

ジョージの部屋のドアが開く。


「はい?」


「ジョージ」


「どうしたの?」


「明日帰れ」


「嫌だよ^^」


「…………」


「拓海がいていいって」


「私のヴィラだ」


「でも拓海の婚約者が拓海のために借りたヴィラでしょ?」


「…………」


「だったら実質、拓海のヴィラでもあるんじゃない?^^」


「…………帰れ」


「明日海行くから無理」


「ジョージ」


「なに?」


「私はお前を、拓海嬢が一人にならないための同行者として送り込んだんだ」


「そうだね」


「私が来た」


「来たね」


「つまりお前の役目は終わった」


「でも拓海が『いていい』って^^」


「…………」


「じゃ、おやすみ」


バタン。


「…………」


自ら送り込んだ監視役。

完全定着。


西欧の過保護魔王は、閉ざされたドアの前で静かに拳を握った。



【翌日】

~第一回・帰国失敗~


翌朝。


「ジョージ」


「なに?」


「明日の便を取った」


「ありがとう^^」


そこへ拓海がやってくる。


「明日ナポリ行くぞー!^^」


「いいね」


「…………」


「エドも行くだろ?」


「……もちろんです」


「じゃ三人で行こうぜ!」


「うん^^」


エドワードは無言で秘書へ電話をかけた。


「……ジョージの航空券をキャンセルしてください」


【帰国:一日延期】



【二日目】

~第二回・帰国失敗~


ナポリ。

拓海は本場のピッツァを両手で持ち、満面の笑みを浮かべていた。


「うっま!!^^」


「拓海、こっちも美味しいよ」


「マジで!? 半分くれ!」


「いいよ」


「…………」


エドワードの眉間に皺が寄る。


だが

拓海が猛烈に楽しそうなので何も言えない。


帰り道。


「ジョージ」


「うん?」


「明日の朝便を取った」


「分かった^^」


「エド! 明後日あっちの市場行こうぜ!」


「……はい?」


「ジョージもな!」


「行こうか^^」


「…………」


【帰国:再延期】



【三日目】

~無限ループ完成~


朝食。


「ハミルトン」


「なんだ」


「明日の僕の便、何時?」


「午前十時だ。七時半に車を出す」


「分かった」


拓海が肉を頬張りながら顔を上げた。


「明日プールでバーベキューだぞ?」


「じゃ無理だね^^」


「行け。」


「なんでだよ」


拓海が不満そうにエドワードを見る。


「ジョージもいた方が面白いじゃん」


「…………拓海嬢」


「ん?」


「今回の旅行は……その……本来……」


「?」


「…………」


「なんだよ?」


「…………いえ」


ジョージがニヤニヤしながらワインを飲む。


「言えばいいのに^^」


「黙れ。」


「何を?」


「黙れ!!」


「変な奴らだな(・∇・)」


拓海は何も分かっていない。


当然である。

拓海の脳内では、この旅行はすでに、


【イタリア!】


【ピッツァ!】


【肉!】


【海!】


【プール!】


【エド!】


【ジョージ!】


【三人で遊ぶ!^^】


という、実に健全な夏休みイベントへ再コンパイルされていた。


エドワードが夢見ていた、


【婚約後初♡二人きりのロマンチックなイタリア旅行】


という元データは

跡形もなく消滅していた。



【旅行最終日】

~完全敗北~


そして。


楽しかったイタリア旅行も、ついに最終日。


ヴィラの車寄せでは、使用人たちが荷物を車へ積み込んでいる。


拓海のトランク。

エドワードのトランク。


そして。


当然のように置かれている……


ジョージのトランク。


「…………」


エドワードは、それをじっと見つめた。


「ジョージ」


「なに?」


「…………お前」


「うん」


「結局、最後までいたな」


「いたね^^」


横から拓海が口を挟む。


「何言ってんだよ。三人で来たんだから三人で帰るだろ^^」


「三人で来てません!!!!!」


「?」


「貴女とジョージが先に来て!! 私は一人で後から来たんです!!」


「同じじゃん(・∇・)」


「どこがですか!!」


「最終的に三人いるじゃん」


「…………」


ジョージがエドワードの肩をぽんと叩いた。


「拓海の勝ちだね^^」


「何の勝負だ!!」


「細けぇなぁ、エドはwww」


「細かくありません!!」


こうして。


西欧の過保護魔王が何か月も前から夢見ていた、


【婚約後初・二人きりのイタリア旅行】


は、


拓海・エドワード・ジョージによる、十九歳大学生三人組の夏休み旅行


として最後まで完遂されたのであった。


【ロンドン帰還後】

~敗北のアルバム~


数日後

ハミルトン別邸の書斎。


エドワードは、現像された旅行写真を一枚ずつ整理していた。


焼き立てのピッツァを頬張り、豪快に笑う拓海。

海で水しぶきを上げてはしゃぐ拓海。

プールサイドで肉へかぶりつく拓海。

市場で妙な木彫りの置物を見つけ、腹を抱えて笑っている拓海。


そして。


その横には、かなりの確率で


ジョージ。


「…………」


エドワードの眉間に皺が寄る。


だが、次の写真。


拓海が笑っている。


次。

これも笑っている。


次。

やっぱり楽しそう。


「…………」


口元が、徐々に緩んでいく。


「…………(*´ω`)」


「楽しかったね^^」


「っ!?」


いつの間にか、ジョージが後ろから写真を覗き込んでいた。


「……勝手に入るな」


「いい写真だね」


「…………」


「拓海、ずっと楽しそうだったし」


「…………ええ」


それだけは

認めざるを得なかった。


計画通りではなかった。


二人きりでもなかった。

ロマンチックでもなかった。

ジョージは最後までいた。


だが、

拓海は、心の底から楽しそうだった。


ならば


まあ

悪くは、なかった。


「また三人で行こうね^^」


「二度とお前は連れて行かん!!!!」


その声を聞きつけた拓海が、廊下から顔を出す。


「なんだよ?」


「なんでもありません!」


「旅行の話?」


「ええ」


「じゃ次フランス行こうぜ!^^」


「ぜひ!!(*´ω`)」


「ジョージもな!」


「いいね^^」


「拓海嬢ぉぉぉぉぉぉぉ(´;ω;`)」


どれだけ予定を破壊されても

どれだけ夢見た「二人きり」から遠ざかっても


拓海が楽しそうに笑っている。


それだけで結局、自分まで幸せになってしまう。


西欧の過保護魔王にとって最大の弱点は

最初から最後まで、佐伯拓海そのものなのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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