ハミルトン伯爵が幸せになるまで:58
書くの楽しくてつい長くなっています(`・ω・´)
『自滅とは、職務放棄して日本滞在を満喫したツケ(書類の山)を払わされることになった西欧の過保護魔王が、狂犬お嬢様(拓海)の合理的すぎる「じゃあ一人で行くわ^^」に発狂し、友人を監視役として先発させた結果、自分が予約したローマのヴィラで二人がピザを貪る声を聞かされ、嫉妬と焦燥で事務処理速度を300%まで爆上げする現象のことであるという話』
【ロンドン・ハミルトン別邸】
~書斎のデスマーチ~
日本からウッキウキで帰国したエドワードを待ち受けていたもの。
それは。
机を埋め。
応接テーブルを埋め。
さらには急遽運び込まれた補助机まで埋め尽くす………
約一か月分の未処理案件。
「…………」
エドワードは無言で立ち尽くしていた。
その隣から、拓海がひょこっと顔を出す。
「うわ。すげぇな^^」
「…………」
「これ全部エドの?」
「…………はい」
「何日かかんの?」
「…………」
秘書が冷静に答えた。
「通常でしたら、一週間ほどかと」
「一週間!?」
拓海は驚いた。
エドワードは青ざめた。
イタリア旅行は、明後日出発予定である。
「…………」
だが、
拓海は一切困らなかった。
むしろ実に合理的な解決策を、わずか数秒で導き出した。
「じゃ、エド仕事してろよ^^」
「……はい?」
「俺、一人でイタリア行ってくるから(・∇・)」
「…………」
「ヴィラもう取ってんだろ?」
「…………」
「料理人もいるんだろ?」
「…………はい」
「じゃ問題ねぇじゃん^^」
「…………」
「エドはこれ終わってから来いよ。んじゃ──」
「(´;ω;`)ブワッ」
「なんで泣くんだよ!!www」
拓海としては、至極まともな判断である。
エドワードには仕事がある。
自分は一人でも問題ない。
ならば自分だけ先に行き、エドワードは仕事が終わってから来ればいい。
誰も困らない。
…………エドワード以外は。
「……拓海嬢」
「ん?」
「お願いです……三日だけ待ってください……!」
「三日?」
「はい」
拓海が書類の山を見る。
「三日で終わんの?」
エドワードの瞳から、一瞬で涙が消えた。
「終わらせます」
氷の伯爵、緊急起動。
秘書が即座に現実を突きつける。
「旦那様。物理的に不可能です」
「可能です」
「睡眠時間がありません」
「不要です」
「寝ろよwww」
こうして、
西欧の過保護魔王による【三日間・超圧縮デスマーチ】が幕を開けた。
【二日目・深夜】
~魔王、崩壊~
そして二日目。
「…………」
エドワードの目は、完全に血走っていた。
ネクタイは緩み
シャツの袖は捲られ
普段なら一分の隙もない金髪も、若干乱れている。
カリカリカリカリカリ……!
猛烈な勢いで書類へ署名する。
「エドー」
「……はい……」
拓海が書斎へ入ってきた。
「終わりそう?」
「……終わらせ……ます……」
拓海は机を見る。
横の山を見る。
後ろの山を見る。
エドワードを見る。
「いや、終わってねぇじゃんwww」
「…………」
「俺、やっぱ先行くわ(・∇・)」
ピタッ。
ペンが止まった。
「…………はい?」
「だからイタリア。一人で行ってくる^^」
「…………」
「明日の飛行機で──」
「いやああああああああああ(´;ω;`)」
「うおっ!?」
「行かないでくださいぃぃぃぃ!!」
「なんでだよ!!」
「一人は駄目ですぅぅぅぅ!!(´;ω;`)」
「俺もう十九だぞ!?」
「知っています!!」
「一人で英国まで来て寮生活してたんだぞ!?」
「知っています!!」
「じゃ何が問題なんだよ!!」
「私が心配なんです!!」
「知らねぇよwww」
正論。
完全なる正論であった。
「それに俺、一人でも普通に行けるぞ?」
「分かっています!!」
「じゃいいじゃん」
「よくありません!!」
「なんで?」
「…………」
「?」
「……私が一緒に行きたいんです(´;ω;`)」
「じゃ仕事終わったら来いよ(・∇・)」
「だから先に行かないでくださいぃぃぃ!!」
もはや論理など存在しない。
その時エドワードの血走った翡翠の瞳が、
書斎の入口に立つ、一人の男を捉えた。
「…………ジョージ」
「ん?」
仕事の進捗を笑いに来ただけの友人。
”ジョージ”
「お前、拓海嬢と先にイタリアへ行ってこい!!」
「は?^^」
「私もあと三日……いや、二日!! 二日で必ず追いつく!!」
「ちょっと待って」
「それまで拓海嬢を頼む!!」
「なんで僕が?」
「一人で海へ行かせるな! 知らない男について行かせるな!
危ないところへ行かせるな! 木にも登らせるな!!」
「俺は五歳児か」
ジョージは冷静だった。
「ハミルトン」
「なんだ!」
「拓海、一人でも別に平気でしょ」
「分かっている!!」
「その辺の男に絡まれても?」
「…………」
三人が拓海を見る。
「倒すぞ?(・∇・)」
「だよね^^」
「そういう問題ではない!!」
ジョージは盛大に溜め息をついた。
「じゃあ何のために僕が行くの?」
「私のためだ!!」
「知らないよ^^」
「頼むジョージ!!(´;ω;`)」
西欧の魔王。
ついに友人へ縋った。
「プライベートジェットを出す!」
「いらない」
「滞在費はすべて私が持つ!」
「別にいいよ」
「食事も酒も全部私が出す!!」
「…………」
ジョージの動きが止まる。
拓海も反応した。
「飯も?^^」
「もちろんです!!」
拓海がジョージの肩を叩く。
「行こうぜ^^」
「君まで勝手に決めないでくれる?」
「タダだぞ?」
「…………」
「ローマだぞ?」
「…………」
「酒もタダだぞ?」
「……まあ」
ジョージは肩を竦めた。
「ハミルトンが死にそうだし、二日くらいならいいか^^」
「ジョージ……!!」
「恩に着てね^^」
こうして、
エドワード・ハミルトンが企画した、
【婚約後初・愛する拓海嬢との二人きりのイタリア旅行】
は、
なぜか。
拓海+ジョージ
という謎の先発隊によってスタートすることとなった。
【翌日】
~自分で作った地獄~
ローマ郊外。
自分が予約した、プール付きのヴィラ。
自分が手配した、一流の専属料理人。
自分が選んだ、美しい庭園。
自分が用意した、最高の休暇。
そこにいるのは
拓海。
そして
ジョージ。
自分だけイギリス。
「…………」
カリカリカリカリカリカリカリカリ!!
「旦那様、こちらの確認を──」
「済みました!!」
バンッ!!
「……早っ」
次。
「こちらの契約書も──」
「確認済みです!!」
「こちらは明日でも」
「今日やります!!」
「旦那様、少し休憩を……」
「ローマが私を待っているんです!!」
「ローマは逃げません」
「拓海嬢はいるんです!!」
「…………」
秘書は何も言わず、次の書類を差し出した。
嫉妬
焦燥
後悔
そして愛
あらゆる感情を燃料へ変換し、西欧の魔王の事務処理速度は驚異の”300%”へ突入していた。
その夜。
プルルルル……。
「はい!!」
『ハミルトーン^^』
ジョージだった。
「拓海嬢は!?」
『僕に用はないの?』
「拓海嬢は!?」
『はいはい。元気だよ』
電話の向こうから、楽しそうな声が聞こえてくる。
『ジョージー! これ食ってみろ! このピザめちゃくちゃうめぇぞ!!^^』
『あ、本当だ。うまいね』
『だろ!? エドにも食わせてやろうぜ!^^』
「…………」
『エドー! 聞こえてるかー!?』
「拓海嬢……!!」
『ここのピザすげぇうまいぞ! 早く来いよ!^^』
「拓海嬢ぉぉぉぉぉぉ(´;ω;`)」
愛おしい。
嬉しい。
今すぐ会いたい。
そして何より
『なぜジョージが先にそのピザを食っている』
「旦那様」
「…………」
「泣いていないで仕事をしてください」
「──あと何件ですか!!」
「二十八件です」
「今夜中に終わらせます!!」
「寝てください」
こうして、
自分でジョージを送り込み
自分で嫉妬し
自分で勝手に追い詰められ
その結果、自分史上最高速度で仕事を片付ける。
完璧なる【自滅】によって。
エドワード・ハミルトンは予定をさらに半日縮め。
翌日、
ほぼ寝ていない血走った翡翠の瞳のまま、ローマ行きの飛行機へ飛び乗ったのであった。
なお
当の拓海はその頃。
「ジョージ! 明日海行こうぜ!!^^」
「ハミルトン来るんじゃなかったっけ?」
「じゃ三人で行けばいいじゃん(・∇・)」
何ひとつ問題を感じていなかった(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




