ハミルトン伯爵が幸せになるまで:57
でしょうね!^^
『回収とは、二週間の日本滞在で狂犬お嬢様(拓海)の幼少期ログと聖地巡礼を余すところなく回収した西欧の過保護魔王が、光の速さで荷造りからイタリア旅行まで手配し、父親(和也)の絶叫を背に婚約者をロンドンへ再接続したものの、自ら二週間放棄した仕事までは消滅していなかった現象のことであるという話』
【千代田区・佐伯家】
~過保護魔王、完全復活~
二週間前。
「拓海嬢……一緒に英国へ戻りませんか……(´;ω;`)」
目の下にクマを作り、半ば泣きながら地球の反対側まで押しかけてきた男がいた。
エドワード・ハミルトン。
拓海が日本へ帰国して、わずか十四日。
重度の拓海欠乏を発症した結果、仕事を放り投げてプライベートジェットを飛ばしてきた
西欧の過保護魔王である。
しかし。
日向神社を巡り。
幼馴染・菜摘から二歳児時代の虫テロ情報を入手し。
十五年間通った母校を訪れ、拓海の「お嬢様擬態システム」の原点を知り。
さらに佐伯家のアルバムから、
【泥まみれで満面の笑みを浮かべる二歳児・佐伯拓海】
という至宝まで網膜へ焼き付けた現在。
男は、驚異的な超回復を遂げていた。
「拓海嬢。荷造りは済ませておきました^^」
「おー」
「パスポートと航空券も確認済みです^^」
「おう」
「空港までの車も手配しました^^」
「はやっ」
「それから、ローマ郊外のヴィラも確保しました。プライベートプール付きです^^」
「おお!^^」
「専属の料理人も手配済みです。英国へ戻った二日後には出発できます^^」
「肉は?」
「もちろん^^」
「ピッツァ!」
「もちろん^^」
「ジェラート!」
「お好きなだけ^^」
拓海の顔が、ぱあっと輝く。
「よっしゃ! イタリア!!^^」
「はい!!(*´ω`)」
二人の横で。
世界でただ一人、猛烈に不機嫌な男が腕を組んでいた。
「…………」
警視庁刑事・佐伯和也。
愛娘を回収しに来た男を二週間も自宅へ泊めた挙げ句、
いよいよ本当に娘を英国へ持っていかれる父親である。
「…………本当に帰るのか」
「何言ってんだ親父」
拓海がキョトンとする。
「最初から二週間って約束だったろ?(・∇・)」
「そうだけどよ……」
「それにイタリア行くしな!^^」
「…………」
「本場のピッツァ食って、肉食って、泳ぐぞ!^^」
「──やっぱり飯に釣られてんじゃねぇか!!」
「ガハハ!^^」
絢子はそんな夫を横目に、いつものように穏やかに微笑んだ。
「ハミルトン様」
「はい」
「拓海をよろしくお願いいたしますね^^」
エドワードは背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。
「はい。お任せください、お母様^^」
「誰がお母様だハミルトォォォォォン!!!!!」
「親父うるせぇなwww」
二週間ですっかり定着した、千代田区・佐伯家の様式美であった。
◆
【羽田空港】
~二週間前の完全逆転~
そして、出発当日。
羽田空港・国際線出発ロビー。
思えば二週間前。
いや、そのさらに二週間前のヒースロー空港では………
「んじゃなエド! 二か月後にまたな!^^」
そう言って何の未練もなく日本へ帰っていく拓海を、
「…………二か月……」
エドワードが絶望の底で見送っていた。
だが今。
その構図は、見事なまでに逆転していた。
「拓海!」
「ん?」
「ちゃんと飯食えよ!」
「食う食う^^」
「何かあったらすぐ連絡しろ!」
「分かったって」
「危ないことすんなよ!」
「しねぇよwww」
「木にも登るな!」
「それは分かんねぇ^^」
「分かれ!!」
和也の横で、絢子が苦笑する。
「拓海。元気でね^^」
「おう! 母ちゃんもな!」
ぶんぶんと手を振る拓海。
その隣で、
エドワードは実に晴れやかな顔で和也へ向き直った。
そして、完璧な貴族の礼。
「それでは、お父様」
「…………」
「拓海嬢は、私がお預かりいたします^^」
「預けた覚えはねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
羽田空港に、警視庁刑事の怒号が轟いた。
「じゃーな親父ー!^^」
「拓海ぃぃぃ!!」
「また来ます、お父様^^」
「お前は来なくていい!!」
その絶叫を背中に浴びながら。
西欧の過保護魔王は、満面の笑みで狂犬お嬢様を伴い、出国ゲートの向こうへ消えていった。
◆
【機内】
~勝利を確信した男~
ファーストクラス。
拓海は座席へ収まるなり、機内食のメニューを広げていた。
「エドー」
「はい^^」
「どれ食おうかな」
「お好きなものを」
「肉あるぞ^^」
「ありますね^^」
「これにする!」
「では私も同じものを」
「なんでだよwww」
エドワードは幸せだった。
拓海嬢を回収した。
日本で二週間、彼女の故郷を見ることもできた。
そしてロンドンへ戻れば
婚約後初めての、二人きりのイタリア旅行。
ローマ
プール付きのヴィラ
二人きりの食事
青い空
美しい街並み
【隣には拓海嬢】
「…………(*´ω`)」
「エド、またニヤニヤしてるぞ」
「していません^^」
「してるってwww」
もはや完全勝利。
エドワード・ハミルトンの脳内には、一点の曇りもなかった。
…………そう。
彼は忘れていた。
自分がなぜ、日本へ飛んだのかを。
拓海欠乏十四日目。
理性を失った若き伯爵は、
【急ぎ以外は帰国後に】
という一言を残し。
本来なら自分が処理すべき仕事の大半を、秘書とジョージへ放り投げて日本へ逃亡したのである。
そして。
仕事というものは。
主人が恋人を追いかけて地球の反対側へ逃げたからといって、消滅してくれるほど優しくはない。
数時間後。
ロンドン・ハミルトン別邸。
書斎の扉を開いたエドワードを待っていたのは………
机を埋め
応接テーブルを埋め
さらには臨時の補助机まで占領した、
決裁待ち。確認待ち。返答待ち。面談待ち。
二週間分の、壮大なる仕事の山。
そして、その中央には一枚のメモ。
『おかえり、ハミルトン^^
逃げんなよ。
George』
「…………」
エドワードの手から。
イタリアのヴィラのパンフレットが、ひらりと床へ落ちた。
因果応報、開幕。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




