第五十九話 「竹刀の”しなり”は、理屈を叩き伏せる」という話
「」→日本語
『』→英語
→すみませんが脳内変換してください!
→だんだんめんどくさく・・・
翌朝、午前六時。
佐伯家の庭。
朝霧が、薄く立ち込めている。
「―構えろ、外国人」
低く。
だが、庭の空気そのものを震わせる声。
そこに立っていたのは、老人だった。
年季の入った袴。
正眼に構えられた竹刀。
母方の祖父。
拓海に剣のいろはを叩き込んだ張本人。
『……タクミ』
エドワードが、借り物の道着に袖を通しながら言う。
『……確認だ』
視線は、老人から一切逸れない。
『……あの個体の『重心』。……地面から、0.5ミリもブレていない』
一拍。
『……重力そのものを、構造的に支配しているのか』
『ただの足腰の強さだよ!!』
即ツッコミ。
『じいちゃん、毎日素振り1000回してんだぞ!!』
『……1000回』
エドワードが、小さく呟く。
『……累積された『打撃のログ』……』
竹刀を握る。
ぎこちない。
だが、目は真剣だった。
後ろでは、ジョージが面を被り、
防空頭巾のような状態でカメラを構えている。
『……極東のマスターvs英国の執着……記録開始』
『―行くぞッ!!』
その一歩。
それは、“踏み込み”ではなかった。
衝撃だった。
エドワードの間合いが。
概念ごと、踏み潰される。
「――メェェェェンッ!!」
「……グハッ!?」
音が、遅れて届いた。
竹刀が。
思考より先に。
エドワードの脳天を、正確に撃ち抜く。
回避。判断。分析。
すべてが、起動する前に。
叩き切られた。
「……タクミ」
地面に沈みながら。
白目のまま、呟く。
「……見えたぞ」
一拍。
『……今の一撃……空気が……『真空』になった……』
『……なってねぇよ!!』
「エドワード君!! 大丈夫!?」
菜摘が、味噌汁の匂いを漂わせながら縁側に現れる。
「たっくん!! おじいちゃん、手加減してないよ!! 外国人相手にガチだよ!!」
「いつものことだろ!!」
拓海が叫ぶ。
「じいちゃん、相手が誰でも“一本”取るまでやめねぇんだよ!!」
十分後。
エドワードは、十数回の「メン」を浴びていた。
髪型は完全に崩壊。
もはや原型を留めていない。
「……フフ……」
ふらつきながら、笑う。
「……面白イ」
「……ジイチャン」
顔を上げる。
「ソノ一閃は……タクミヲ守ルタメノ盾……ナノカ?」
「……やかましいわ!!」
竹刀の柄が。
容赦なく、エドワードの尻に入る。
「腰が入っとらん!!」
一喝。
「悩みが多い証拠だ!!」
「拓海に惚れとる暇があったら!!」
「あと100回!! 空を斬れ!!」
「……!?」
エドワードの目が見開かれる。
「……ホレテ……?」
一拍。
『……ジイチャン……私の『構造的独占欲』を……一目で見抜いたのか……!!』
その目が、変わる。
崇拝。
『……サエキ・タクミの源流……』
ゆっくりと、立ち上がる。
『……その直感の強度……アップデート……完了だ……!!』
『……勝手に感動すんな!!』
『じいちゃんに失礼だろ!!』
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朝食の席。
じいちゃんは、エドワードが持参した最高級の紅茶を。
湯呑みで、豪快に啜っていた。
「……ふむ」
一言。
「……この茶……苦味(強度)は足りんが、香りは悪くないな」
一拍。
「……お前、また明日も来い」
「……イエス・サー(御意)」
即答。
「……マスター」
「……明日……私ノ『フェンシング』ノロジック……見セル」
「……ほう」
じいちゃんが、静かに笑う。
「……西洋の目潰しか。受けて立とう」
「……家を壊すなよ!! 二人とも!!」
ジョージのペンが、静かに走る。
【サエキ事変・日本遠征三日目】
ハミルトン様、……ついに『師範』に懐柔される。
英国貴族のプライドは竹刀の一振りで物理的に粉砕。
しかし同時に『師弟関係(※一方的)』を構築。
なお、筋肉痛という名の構造的負荷は、現在急上昇中。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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