ハミルトン伯爵が幸せになるまで:50
祝:婚約発表(`・ω・´)
『進捗とは、過保護魔王だけが「一目惚れ→エスコート→婚約者」と爆速で夢を叶えて歓喜の絶頂にいる横で、狂犬お嬢様(拓海)の恋愛ゲージだけが「誰だあの変態外人→エド^^→得しかねぇ^^」とほぼ未実装のまま、無事ハミルトン家最大の社交場へ『未来の妻』として君臨する現象のことであるという話』
【五月上旬・ハミルトン別邸】
~魔王の匠研磨~
五月に入り、ハミルトン家伝統のガーデンパーティを目前に控えた頃。
エドワードの張り切りっぷりは、ついに限界を突破していた。
最高級の生地から仕立てられたオーダーメイドドレス。
ハミルトン伯爵家に代々伝わる宝飾品の中から、拓海に似合うものだけを厳選したジュエリー。
ドレスに合わせて誂えた特注の靴。
髪飾り。
手袋。
果ては当日持たせる小さなバッグに至るまで。
すべて
エドワード・ハミルトン監修。
「…………」
目の前にずらりと並べられた品々を眺めて、
拓海は思った。
「……多くね?」
「多くありません」
「俺、身体一個しかねぇぞ?」
「知っています」
「これ全部つけんの?」
「全部ではありません。そこから最も似合うものを選びます」
「ふーん」
興味が失せた。
「じゃ、エドが決めといていいぞー^^」
「任せてください!!(`・ω・´)」
翡翠色に近い青の瞳に職人の炎が灯った。
「お、おう」
そこからはもう。
朝のスキンケア
夜のトリートメント
ドレスの仮縫い
靴のフィッティング
髪型の選定
「もういいんじゃね?」
「よくありません」
「誰もそんな細かいとこ見ねぇって」
「私が見ます」
「お前が見るのかよ」
「当然です」
「変態だな^^」
「なぜですか!!」
こうして。
入学イベントで一目惚れした『楚々とした東洋の令嬢』を
その正体が、
木に登り
三階から飛び
肉で釣れ
その辺で寝て
放っておけば洗面台用の布で顔を拭く狂犬であると知った男が。
今度は自らの手で
あの日以上の『楚々とした東洋の令嬢』へ磨き上げていた。
なお
本人の中身については。
「腹減った。肉ある?^^」
一ミリも改善していなかった。
◆
【五月二十三日・ハミルトンホール】
~内部処理の圧倒的格差~
五月二十三日。
雲一つない快晴。
初夏を迎えたハミルトンホールの広大な庭園には、美しい花々が咲き誇り。
英国社交界、政財界から招かれた多くの客人が集っていた。
その日、
ひときわ多くの視線を集める女性がいた。
艶やかな漆黒の髪。
清楚でありながら華やかなドレス。
その首元には、ハミルトン家に伝わる宝飾品。
そして
その隣に立つのは……
若きハミルトン伯爵。
エドワードだった。
「……拓海嬢」
「ん?」
エドワードは手を差し出した。
「お手を」
「おう^^」
ぽん。
何の躊躇もなく拓海の手が重なる。
それだけ。
拓海にとっては
クリスマスの舞踏会と、何も変わらない。
だが。
エドワードにとっては、まったく違った。
あの夜。
クリスマスの舞踏会で
ただ隣を歩くことしか許されなかった女性。
まだ、自分だけが彼女を愛していた頃。
それが今は。
「…………」
自分の腕に添えられた拓海の手を見る。
(……婚約者だ)
(拓海嬢が……)
(今、私の正式な婚約者として、ここにいる……)
「…………(*´ω`)////」
「エド」
「はい!!」
「なんでニヤニヤしてんの?」
「していません」
「してるぞ」
「していません」
「口元すげぇぞ^^」
「気のせいです」
ジョージがエドワードをじっと見て言う。
「してるねぇ^^」
「黙れ!!」
「はははは!」
少し離れた場所から見ていたジョージは、腹を抱えて笑った。
「いやぁ。クリスマスの時も大概だったけどさ」
「何だ」
「婚約したらもっと酷くなったな、お前」
「うるさい」
「こいつ最近ずっとこんなだぞ^^」
「知ってる」
「二人とも黙れ!!」
◆
【正式披露】
~私の婚約者です~
やがて客人たちの視線が集まる中、
エドワードは拓海を伴って、庭園中央へと進んだ。
ざわめきが広がる。
クリスマスの舞踏会にも参加していた者たちは
当然、拓海を覚えていた。
「あの時の日本人令嬢では……?」
「ハミルトン伯爵がエスコートしていた……」
「では、やはり……」
そんな声が交わされる中
エドワードは拓海の手を取ったまま
堂々と告げた。
「皆様に、ご紹介いたします」
そして
ほんの一瞬だけ隣の拓海を見る。
あの日。
入学イベントで初めて見た時には
名前すら知らなかった女性。
クリスマスには。
ただ隣を歩けるだけで嬉しかった女性。
そして今。
「──私の婚約者、佐伯拓海嬢です」
「佐伯拓海です^^」
完璧な微笑
完璧な一礼
完璧な令嬢
一瞬、
庭園が静まり。
そして大きな拍手が巻き起こった。
「…………」
その隣でエドワードは、
人生最大級の幸福を噛み締めていた。
◆
【現在の進捗状況】
【エドワード側】
入学イベント。
『美しい……』
↓
クリスマス。
『拓海嬢をエスコートできる……!』
↓
五月二十三日。
『私の婚約者です……!!』
夢、爆速で進行中。
対して。
【拓海側】
入学イベント後。
『誰だあの変態外人』
↓
クリスマス。
『エド^^ 飯奢ってくれるマブダチ^^』
↓
五月二十三日。
『婚約すると得しかねぇ^^』
恋愛ゲージ:ほぼ初期値。
にもかかわらず、
なぜか婚約だけは成立している。
英国社交界でも類を見ない、奇跡の進捗状況であった。
◆
【庭園】
~令嬢モード、活動限界~
正式な挨拶を終えて約十分後。
「…………」
「どうしました?」
「腹減った」
令嬢モード終了。
「料理でしたら、あちらに」
「肉ある?」
「ローストビーフがあります」
「マジで!?」
ドレスの裾を摘まみ。
拓海は一直線に料理台へ向かった。
「拓海嬢! 走らないでください!」
「肉なくなるだろ!」
「なくなりません!!」
「ははははは!!」
ジョージは二人を見て”相変わらずだな”、と笑っていた。
◆
【庭園の片隅】
~父と母~
少し離れたテラス席。
グラスを手にした佐伯夫妻は、
そんな娘と未来の婿を眺めていた。
「…………」
娘とその婚約者。
「うめぇ!!^^」
「拓海嬢。口元にソースが」
「ん?」
「動かないでください」
ナプキンを取り、
当然のように、拓海の口元を拭く。
「サンキュ^^」
「いえ」
「…………(*´ω`)」
和也の顔は相変わらず苦虫をかみつぶしている。
「…………チッ」
「あなた」
「なんだ」
「また顔が怖いですよ^^」
「……あいつ」
「はい?」
「鼻の下伸ばしやがって……」
「ふふっ」
「…………」
しばらく黙って見ていた。
豪華なドレスを着ていても
英国の名門伯爵家の庭にいても
周囲を貴族たちに囲まれていても
娘は”いつもの拓海”だった。
笑って
肉を食って
エドワードへ何か話しかけ
また笑っている。
「…………」
そしてその隣にいる男も。
そんな拓海を変えようとはしていない。
むしろ、”誰よりも嬉しそうに”
そのままの娘を見ている。
「……まあ」
「?」
「……気持ちだけは、本物みたいだからな」
「ええ」
「認めたわけじゃないぞ」
「昨日、認めましたよ」
「…………」
「あなた自身が^^」
「…………そうだった」
◆
その頃
料理台では。
「エド! これも食え!^^」
「ちょ、拓海嬢! そんなに皿へ乗せないでください!」
「うめぇぞ^^」
「分かりましたから!」
それを遠巻きに見ていたジョージが声をかける。
「エドワード」
「今度は何だ!」
ジョージは笑いながら深々と溜め息をついた。
「……お前さ」
「?」
「拓海を飼い慣らしたつもりなんだろうけど」
「そんなつもりはない!」
「どう見ても……」
その先で、拓海が手を振る。
「エドー!! こっち来いよー!^^」
「今行きます!!」
即座に歩いていく伯爵。
「…………」
ジョージはその様子見見ながら肩を震わせる。
「飼い慣らされてるの、お前の方だよ^^」
こうして
過保護魔王・エドワードの恋愛ロードマップは。
【一目惚れ】
から
【片思い】
を経て、ついに
【正式な婚約者】
へ、大きな一歩を進めた。
なお。
未来の妻・佐伯拓海の恋愛ロードマップは。
「エド! ローストビーフおかわり!!^^」
「はいはい」
現在も絶賛、初期設定のままである(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




