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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:48

ちゃんとラブコメになってますか?(´・ω:;.:...

誤算インストールとは、娘の婚約を査定するため渡英した警視庁刑事(和也)が、車内での様子に「こいつには気を許しているな」と密かに加点した直後、本邸到着一秒で使用人一同から「お帰りなさいませ、若奥様^^」と迎えられ、ハミルトン家全体がとっくに狂犬お嬢様(拓海)を未来の女主人としてインストール済みだった現実を叩きつけられる現象のことであるという話』


【ハミルトンホールへ】

~刑事、査定再開~


ヒースロー空港で、


『俺、エドと婚約したぞ!^^』


という娘からの事後報告を食らい

十二時間かけて組み立ててきた婚約査定ロードマップを、到着早々粉砕された父・和也。


だが。

そこは数々の修羅場を潜り抜けてきた警視庁刑事である。


ハミルトンホールへ向かう車内で、ようやく冷静さを取り戻しつつあった。


「…………」


腕を組む。

眉間には深い皺。


向かいには妻・絢子。


そして隣には。


「んあー……喉乾いた」


「こちらをどうぞ」


すっ。


「おー^^」


当然のようにエドワードから飲み物を受け取る娘。


「…………」


「果汁百パーセントです。冷たすぎると身体に良くありませんから、少し常温に戻してあります」


「んまい^^」


「…………」


細かい。


「なんか腹減ったな」


「軽食がありますよ」


「マジで?」


「サンドイッチを」


「食う^^」


「どうぞ」


「おー^^」


「…………」


用意がいい。


さらに数分後。


「ふぁぁ……」


大きな欠伸。


「お疲れですか?」


「朝早かったから眠ぃ……」


「到着までまだ時間があります。少しお休みになっては?」


「んー……」


言われるがまま目を閉じ


そして何の躊躇もなく


こてん

エドワードの肩へ頭を乗せた。


「…………!」


「…………すぅ」


「…………(*´ω`)////」


「…………」


その顔を見て”殺意”


「あなた」


「なんだ」


「顔が怖いですよ」


「……見てるだけだ」


今は怒鳴らない。


なぜなら

査定中だからである。



【査定】

~不本意ながら、プラス一点~


和也は改めて、眠っている娘を見る。


拓海は昔から、嫌なものは嫌とはっきり言う。


気を遣って我慢するような性格ではない。


嫌な相手に愛想笑いをして合わせるなど、佐伯家の猫を被っている時くらいのものだ。


まして

無防備に身体を預けて眠るなど。


「…………」


ちらり。


和也はエドワードを見る。


拓海を起こさないよう、身体をほとんど動かさずに座っている。

さらに車が揺れるたび、拓海の頭が窓へぶつからないよう、さりげなく手を添えていた。


「…………」


気に入らない。

非常に気に入らない。


だが

刑事として、事実は事実として認めなければならない。


(……拓海が、こいつに気を許しているのは間違いないな)


「…………チッ」


【ハミルトン伯爵・査定ポイント】


+1点。


エドワード本人が知れば泣いて喜びそうな、初めての加点であった。

この時までは。



【ハミルトンホール】

~到着一秒、査定崩壊~


やがて

車窓の向こうに、広大な敷地が現れた。


美しく整えられた庭園。

その奥に堂々と佇む、歴史ある巨大な館。


ハミルトン伯爵家本邸。


【ハミルトンホール】である。


和也「…………」


資料や写真では何度も見た。

だが実物を前にすると、その規模はやはり圧倒的だった。


車は長いアプローチを抜け。

重厚な正面玄関前の車寄せで、静かに停止した。


すでに玄関前には

執事長、家政婦長をはじめとする使用人たちが整然と並んでいる。


扉が開く。

エドワードが先に降りた。


「お帰りなさいませ、旦那様」


「ただいま」


続いて、佐伯夫妻。


「ようこそお越しくださいました、佐伯様。長旅、お疲れでございました」


「……どうも」


「お招きいただき、ありがとうございます」


完璧だった。

さすが英国屈指の名門伯爵家。


礼節。

格式。

隙のない出迎え。


そして最後に


拓海が車から降りる。


拓海「よっ、と」


その瞬間。


家政婦長が、にこやかに一礼した。


「──お帰りなさいませ、若奥様^^」


「…………」


「…………」


「(*´ω`)」


「おう^^」


和也がフリーズする。


「…………」


数歩進み、

そして止まった。


「待て。」


「ん?」


「……今」


「?」


「今、この人は……お前を何と呼んだ?」


「若奥様?(・∇・)」


「なぜ疑問形なんだ!!」


「だっていつもそう呼ばれてるし」


「いつも!?」


新情報が追加された。



【若奥様】

~外堀、既に埋め立て完了~


「どういうことだ!?」


「佐伯様は、いずれ当家へお入りになるお方と伺っておりますので」


「誰から!?」


「…………」


使用人一同の視線が実に滑らかに、


スッ……。


一人の青年へ集中した。


「…………」


額から冷や汗。


「…………」


「…………」


「ハミルトォォォン……」


「お、お父様! これには事情が!」


「──誰がお父様だ!!!!」


「申し訳ありません!!」


「親父うるせぇぞ」


「お前は黙ってろ!!」


「なんだよ^^;」


和也は家政婦長へ向き直った。


「……いつからです」


「はい?」


「いつから、娘をそういう認識で?」


「俺も知りたい」


「拓海嬢!?」


家政婦長は少し考え。


「正式に『若奥様』とお呼びするようになりましたのは最近でございますが……」


「が?」


「使用人の間では、以前からそのような認識でございました」


「以前とは!?」


「佐伯様が初めてこちらへお越しになり、しばらくした頃には」


「…………」


「俺、その頃エドと付き合ってすらなかったぞ?」


「存じております^^」


「存じてたの!?」


「ガハハハハ!!^^」


「笑い事じゃない!!」


「…………」


逃げたい。

西欧の魔王、人生で初めて本気で逃げたかった。



【ハミルトン家の認識】


しかし。

使用人たちにも、言い分はあった。


若き当主が入学イベントで一目惚れ。



本人のために別邸を整える。



毎日大学へ送迎。



朝昼晩の食事を気にする。



私服をせっせと買い揃える。



朝の髪と化粧を整える。



夜には洗髪まで担当。



何をやらかしても怒鳴りながら結局許す。



そして何より

本人を見る目が。


常時(*´ω`)/////


これだけの状況を目の当たりにして。


「ただのお友達なのですね^^」


と判断する使用人が。


一体どこにいるというのか。


使用人一同にとって。


佐伯拓海とは。


かなり以前から。


【未来の若奥様】


以外の何者でもなかったのである。


和也は苦虫をかみつぶしていた


「…………」


そして。


車内でせっかく獲得した査定ポイント+1は。


和也「マイナス一万点!!!!」


エドワード「なぜですかぁぁぁぁぁ!!?」


一瞬で銀河の彼方へ吹き飛んだ。



【本邸内部】

~インストール完了済み~


さらに館へ足を踏み入れた和也は

別の意味で言葉を失うことになる。


「おー、久しぶり^^」


「若奥様、お帰りなさいませ」


「元気だった?」


「ええ。若奥様もお変わりなく」


「おう^^」


別の使用人が、ごく自然に拓海の上着を受け取る。


「サンキュ」


「若奥様。以前お気に召していたレモンケーキをご用意しておりますよ」


「マジで!?」


「ええ」


「やった^^」


「…………」


誰も

拓海を、異国から来た客人として扱っていない。


拓海自身もこの巨大な館で

一切萎縮していない。


それどころか

自分の家へ帰ってきたような顔をして歩いている。


「…………」


それは。


父親として少しだけ、予想外の光景だった。


英国屈指の名門伯爵家。

そんなところへ娘が嫁ぐ。


その話を聞いた時

和也の頭には、一つの懸念があった。


自由奔放で

礼儀作法を教えれば三階から逃亡し。

木があれば登り。

腹が減れば飯を要求する。


そんな拓海が。


この格式高い家で

窮屈な思いをするのではないか。


家柄に合わせろ。

伯爵夫人らしくしろ。


そう押さえつけられて

あの娘らしさを失ってしまうのではないか。


だが。


「エドー!」


「何です?」


「菓子食っていいってー!^^」


「夕食前ですから二つまでです!」


「三つ!」


「二つです」


「ケチ!」


「ふふっ。では残りは夕食後にいたしましょう」


「はーい」


使用人たちが楽しそうに笑う。


「ふふっ^^」


和也はそれを見て思う。


「…………」


違った。


娘がハミルトン家に合わせているのではない。

ハミルトン家の方が、とっくに拓海へ合わせてしまっている。



【父親の誤算】


隣で。


絢子も静かにその光景を見ていた。


「……あなた」


「…………なんだ」


「少なくとも」


「?」


「拓海がこちらで肩身の狭い思いをする心配は、なさそうですね」


「…………」


否定できなかった。


むしろ

心配なのは、この由緒正しき英国伯爵家の方なのではないか。


娘が嫁いできた結果。

百年後には庭の木という木に拓海の子孫が登っている可能性すらある。


「…………」


それはそれで申し訳ない。


「……絢子」


「はい」


「俺たちが日本から来る必要……本当にあったのか?」


「さあ」


くすりと笑う妻。


その時。


和也はふと

少し離れた場所に立つエドワードを見た。


拓海がレモンケーキを頬張っている。

それを見ているエドワードは


「…………(*´ω`)」


デロデロだった。


和也「…………」


【査定ポイント】


やっぱりマイナス一万点。


「なぜですか!?」


何はともあれ、

英国屈指の名門ハミルトン伯爵家には。


すでに

”狂犬お嬢様・佐伯拓海”が

完全インストール済み。


本人の婚約承諾より遥か以前から構築されていた『未来の若奥様システム』を前に

最後まで蚊帳の外だった父・和也だけが、

また一つ

どうにも納得できない現実を飲み込む羽目になったのであった(笑)。


そして翌日。


ついに

警視庁刑事(父)VS西欧の過保護魔王(婚約者)。


正式な婚約の挨拶という名の、最終査定が始まる。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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