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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:45

とりあえず真面目に考えるのか拓海嬢

『通知(バグ報告)とは、狂犬お嬢様(拓海)の「俺も好きだぜ^^」を恋人承認と都合よく解釈し、婚約まで一気にコンパイルした西欧の過保護魔王エドワードが、姉(詩織)から事情を知らされた本人に「俺、お前と婚約すんの?(・∇・)」と直撃され、ついに自分の本気を説明せざるを得なくなる現象のことであるという話』


【ハミルトン別邸・サロン】

~姉からの爆弾投下~


四月も半ばを過ぎた頃。

五月二十三日に予定されているハミルトン家のガーデンパーティまで、あとひと月ほど。


その日、

荷物の整理のため別邸を訪れていた詩織は、サロンのソファで優雅さの欠片もなく

スコーンを頬張っている妹へ、何気なく声をかけた。


「そういえば、拓海」


「んー?(´~`)モグモグ」


「来月、お父様とお母様が英国へいらっしゃるわよ」


「マジで!?^^」


ぱっと顔を輝かせる拓海。


「親父も来んの!?」


「ええ」


「おー! 久しぶりじゃん! どっか連れてってやろーぜ^^」


「ハミルトン家のガーデンパーティに正式にご招待されたそうよ」


「エドんちの?」


「そう」


「へー。なんでまた?」


詩織は答えなかった。


ただ優雅に紅茶を一口のみ、

カップをソーサーへ戻し、

何でもない世間話でもするように、さらりと言った。


「──あなた、エドワード様と婚約するんでしょ^^」


「…………」


「…………」


「…………」


スコーンが止まった。


「……誰が?」


「あなたが」


「……誰と?」


「エドワード様と」


「…………」


しばらく拓海は真剣な顔で考えた。


考えて

考えて

それでも何一つ心当たりがなかったらしい。


「……なんで?(・∇・)」


「…………」


知っていた。

こうなることを、姉は知っていた。



【コンパイルエラー】

~当事者、初めて知る~


詩織は深々とため息をついた。


「ハミルトン様から、お父様とお母様宛てに正式な招待状が届いたのよ」


「ほー」


「五月二十三日のガーデンパーティへのご招待。それと一緒に、

ハミルトン様ご本人からお手紙が添えられていたそうよ」


「なんて?」


「『佐伯拓海嬢との婚約について、正式にご両親へご挨拶申し上げたい』と」


「…………」


眉間に皺が寄った。


「……俺、エドと婚約すんの?」


「そう書いてあったそうよ」


「…………」


拓海は自分を指差した。


「俺が?」


「ええ」


「エドと?」


「ええ」


「なんで?」


「ハァ…私に聞かないでちょうだい」


ごもっともである。


「だって俺、そんな話してねぇぞ?」


「でしょうね」


「好きって言われたから、俺も好きだって言ったけど」


「…………」


「それだけだぞ?」


「……ちなみに、どういう意味で?」


「エドはいい奴だし、飯奢ってくれるし^^」


「…………」


完全に判明した。

西欧の魔王による不正コンパイルである。


「意味わかんねぇ。ちょっとエドに聞いてくる!」


「ええ。そうしなさい」


拓海は残っていたスコーンを一口で口へ放り込み、勢いよく立ち上がった。


ドタドタドタドタ!!


「廊下を走らない!」


「へーい!!」


バタン!!


「…………」


一人残された詩織は、静かに紅茶を飲んだ。


「……本当に大丈夫なのかしら、あの二人……」


本日何度目か分からないため息が、サロンへ消えていった。



【書斎】

~本人からのエラー通知~


バァン!!


エドワード「!?」


静かな書斎に、盛大な音が響いた。


書類を確認していたエドワードが顔を上げる。


そこには、

なぜか非常に険しい顔をした拓海が立っていた。


「た、拓海嬢?」


「エド」


「はい?」


拓海は真っ直ぐエドワードを指差した。


「俺、お前と婚約すんの!?(・∇・)」


「…………………!」


停止。

完全停止。

翡翠色に近い青の瞳から、すっと光が消えた。


「……ど、どちらで……それを……?」


「姉ちゃん」


「…………」


終わった。


よりによって詩織。

逃げ道が一ミリも残されていない相手から、正確な情報が本人へ伝達されてしまった。


「親父と母ちゃんに手紙送ったんだって?」


「……はい」


「俺と婚約したいって?」


「…………はい」


「なんで?」


「…………」


【なんで】


あまりにも単純で

あまりにも致命的な質問だった。


「……以前、お伝えしたでしょう。私は拓海嬢を好ましく思っていると」


「おう。俺も好きだって言ったぞ^^」


「はい……!」


一瞬だけ顔が明るくなる。


しかし、


「飯奢ってくれるしな^^」


「…………」


_| ̄|○


やはり……

意味が違った。



【過保護魔王の本音】

~初めて届く意味~


「でも、それと婚約って別じゃね?」


「…………」


正論だった。

狂犬お嬢様から、まさかの正論だった。


「お前、俺と結婚したいの?」


「…………」


エドワードの顔が、みるみる赤くなる。


だが

もう逃げられない。


「……はい」


「へー」


「…………」


「…………」


「…………」


「……それだけ?」


「え?」


「なんで結婚したいんだよ」


「…………!」


完全に追い詰められた。


数千億円規模の商談なら、いくらでも言葉が出てくる。

一族の将来を左右する交渉の席でも、冷静に相手を説得できる。


なのに

目の前にいる、たった一人の少女へ伝える言葉だけが、

どうしても上手くまとまらない。


「……私は……」


「おう」


「拓海嬢と……一緒にいたいのです」


「一緒に?」


拓海は首を傾げた。


「今も一緒じゃん」


「そういう意味ではなく!」


「じゃあどういう意味だよ」


「…………」


言葉に詰まる。


それでも、

今度こそ、逃げなかった。


「大学を卒業しても」


「うん」


「その先もです」


「…………」


「貴女が卒業して、日本へ帰ってしまうのは……嫌です」


「…………」


「まして、いつか私の知らない男性と出会い、その方と結婚して……その方の隣で暮らすなど……」


想像したらしい。

エドワードの顔が本気で曇った。


「…………」


「……もっと嫌です」


「お、おう」


妙に重い。


エドワードは、まっすぐ拓海を見た。


翡翠色に近い青の瞳に、もう迷いはなかった。


「私は、貴女の隣にいたい」


「…………」


「そして……私の隣に、貴女にいてほしい」


「…………」


「できるなら……一生」


そこでようやく


拓海にも、

以前エドワードが口にした「好き」と

自分が返した「好き」が

”まったく違う意味だった”ことが伝わった。


「…………」


「…………」


「……お前」


「はい」


「俺と結婚したいくらい、俺のこと好きだったの?」


「はい」


「いつから?」


「…………」


少しだけ視線を逸らす。


「……初めてお見かけした時から」


「いつ?」


「入学イベントです」


「…………」


「…………」


「……怖ぇよ!!!!!」


「なっ!?」


「お前、あん時まだ俺と喋ってもいなかっただろ!!」


「で、ですが!」


「名前も知らなかったじゃねぇか!!」


「後で調べました!」


「余計怖ぇよ!!」


「拓海嬢!!」



【再計算】

~狂犬、初めて考える~


ひとしきり騒いだあと、

拓海は腕を組んだ。


「…………」


「…………」


「……なるほどなぁ」


「何がです?」


「いや」


拓海は、改めて目の前の男を見る。


毎朝、髪を梳かす男。

放っておけば適当に済ませる自分の身支度を整える男。

腹が減ったと言えば飯を食わせ。

木へ登れば怒り。

落ちれば受け止め。

風呂上がりに濡れた髪で歩いていれば、追いかけてきて乾かす男。


「……お前、あれ全部そういう意味でやってたの?」


「…………」


エドワードの耳が赤くなる。


「……それだけが理由ではありませんが」


「ふーん」


「…………」


「…………」


恥ずかしくはない。


今さら髪に触れられようが、顔を触られようが

別にどうということもない。


ただ、

意味が分かった。


今まで「なんか知らんが世話焼きな奴」で済ませていたエドワードの行動の、

その向こう側にあったものを、

拓海は初めて知った。


そして。


「……拓海嬢」


「ん?」


「……お返事を、いただけますか」


「返事?」


「……婚約の……」


「ああ」


拓海は少し考え

あっさりと言った。


「──ちょっと待って」


「…………」


「…………え」


「だって俺、今初めて聞いたんだぞ?」


「…………」


「お前はずっと考えてたんだろうけど、俺は今知ったんだから。ちょっと考える」


「…………はい」


「じゃーな^^」


「え?」


「腹減ったからなんか食ってくる」


「拓海嬢!?」


そのまま

本当に拓海は出ていった。


バタン。


「…………」


静まり返る書斎。

エドワードは一人、椅子へ崩れ落ちた。


「…………」


告白→

ようやく成功。


自分の気持ち→

ようやく伝達成功。


そして


婚約→

保留。


「…………」


_| ̄|○


五月二十三日まで

あと、約一か月。


西欧の過保護魔王が何か月もかけて一人で爆走してきた恋愛ロードマップは、

ここに来てようやく

狂犬お嬢様本人による正式な審査工程へ突入したのであった(笑)。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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