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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:32

最早ご褒美

矯正メンテナンスとは、「交際とは何をするのか」と問われて答えに窮した西欧の過保護魔王エドワードが、気づけば狂犬お嬢様(拓海)と毎日登下校し、飲酒・暴食・逆立ち・パブ通いを阻止し、最終的には工作バサミから彼女の髪を守って毎朝トリートメントまで施すようになる現象のことであるという話』


【ハミルトン別邸】

~交際とは~


「なあ、エド。」


「はい。」


「交際って何すんの?^^」


「…………。」


エドワード・ハミルトン

完全停止。


「…………。」


「エド?」


「…………。」


考える。


男女が互いを想い

共に時間を過ごし

手を取り


やがて………


(け、結婚……。)


一瞬。

脳裏に純白のドレス姿の拓海が現れた。


「…………ッ!!」


エドワードの顔が一気に赤くなる。


「なんで赤くなってんだよ。」


「な、なんでもありません!!」


「?」


今の拓海に『恋愛』を一から説明する。


無理だ。

少なくとも今の自分には、まだ無理だ。


「……その。」


「まずは。」


「今までより少し多く、一緒に過ごすということでよろしいのではないでしょうか。」


「今までより?」


「はい。」


拓海は少し考えた。


「飯とか?」


「……まあ。」


「それも含まれます。」


「じゃあ別に今までと変わんなくね?^^」


「…………。」


確かに。


エドワードは何も言えなくなった。



【新学期】

~始まった日常~


年が明け、大学の講義が再開した。


そして

学園都市では、一つの変化が起きていた。


「拓海嬢。」


「んー?」


「参りましょう。」


「おう^^」


朝。


ハミルトン別邸から、二人で大学へ。

講義が終われば。


「エドー! 帰るぞー!」


「はい。」


二人で帰る。

それはもう。

周囲から見れば完全に……


「なあ。」


「佐伯とハミルトンって。」


「付き合ってんの?」


「知らね。」


「でも毎日一緒じゃん。」


「佐伯本人に聞いてみる?」


「やめとけ。」


「殴られるぞ。」


……という状態だった。


しかし

当の本人たちに、その自覚はほぼなかった。


特に

佐伯拓海には。



【過保護魔王の日常】

~拓海! 拓海! 拓海!~


「拓海!」


ある日の学生パーティー。

エドワードの声が飛ぶ。


「酒をそんな勢いで飲むんじゃない!」


「えー。」


「舞踏会で何が起きたか忘れたのですか!」


「木から落ちた^^」


「分かっているなら飲まないでください!!」


別の日

学食。


「拓海!」


「ん?」


「そんなにガツガツ食べるんじゃない!」


「腹減ってんだよ!」


「誰も取りません!」


「戦場では食える時に食うのが基本だぞ!」


「ここは大学です!!」


また別の日。

芝生広場。


「拓海!!」


「なんだよ!」


「ミニスカートで逆立ちしようとするんじゃない!!」


「見えねぇようにやるって!」


「そういう問題ではありません!!」


そして

金曜の午後。


「おーい!」


拓海がゼミの男子学生たちへ手を振る。


「今日パブ行こうぜ!!^^」


「拓海!!」


「なんだよ!!」


「ゼミの男性をパブへ誘うんじゃない!!」


「なんでだよ!」


「なぜでもです!!」


「うるせぇな!」


「あなたはもう少し――!」


「うっせぇ!!」


拓海の堪忍袋が切れた。


「小言ジジイがやかましいんだよ!!」


「このバカちんが!!!!」


「…………。」


エドワードはその場で崩れ落ちた。


_| ̄|○


ジョージが通りすがる。


「ハミルトン。」


「最近すっかり保護者だね^^」


「…………。」


「交際って何だったっけ?」


「言うな……。」



【三か月の変貌】

~佐伯家のお嬢様~


大学へ入学した頃。

佐伯拓海の髪は、腰近くまで伸びた美しい黒髪だった。


艶やかなストレートロング。

母・絢子と姉・詩織によって手入れされてきたそれは、

いかにも名門女子校育ちの令嬢といった姿だった。


三か月後。


「…………。」


エドワードは拓海の後頭部を見る。


適当にまとめられたポニーテール。


右から一本。

左から二本。

頭頂部からも、ぴょん。


あちこちから髪が飛び出している。


「拓海嬢。」


「あ?」


「髪を梳かしましたか?」


「昨日やった。」


「昨日!?」


「一日くらい変わんねぇだろ^^」


「変わります!!」


そして。


事件は起きた。



【別邸・洗面室】

~断髪の危機~


「あああああ!!」


拓海が鏡の前で叫んだ。


「もうめんどくせぇわ!!!」


ガサゴソ。

引き出しを漁る。

そして取り出したのは………


工作用のハサミ。


「…………。」


エドワードの顔色が変わった。


「何をするつもりですか。」


「切る^^」


「待ちなさい。」


「短くすりゃ楽だろ。」


「待ちなさい!!」


ジャキン。


「拓海いいいいいい!!!」


エドワードが飛びついた。


「離せ!」


「絶対に離しません!!」


「俺の髪だぞ!」


「だからといって工作バサミで切る人がありますか!!」


「切れりゃ一緒だろ!」


「一緒ではありません!!」


工作バサミを握る拓海。

その腕へ全力ですがりつく英国伯爵。


「離せぇぇぇ!!」


「嫌です!!」


「切らせろ!!」


「嫌です!!!」


数分に及ぶ死闘の末

工作バサミは無事、エドワードによって没収された。



【翌朝】

~魔王、美容師になる~


翌朝。


「…………。」


拓海は椅子に座っていた。


ものすごく不機嫌そうな顔で。


その背後には。


櫛。

ブラシ。

ヘアオイル。


そして

トリートメント。


完璧な布陣を整えたエドワード・ハミルトン。


「動かないでください。」


「めんどくせぇ。」


「あなたが昨日、工作バサミを持ち出したからでしょう。」


「短くしたかっただけなのに。」


「美容院へ行ってください。」


「金かかる。」


「私が出します。」


「じゃあ行く^^」


「…………。」


金で即座に解決した。


だが。


今日は今日である。


エドワードは丁寧に拓海の黒髪へブラシを通していく。


絡まった部分を無理に引っ張らないよう

少しずつ、ゆっくりと。


「いてっ。」


「申し訳ありません。」


「もっと優しくやれよ。」


「努力しています。」


「姉ちゃんの方が上手い。」


「…………精進します。」


「おう^^」


なぜ。


英国屈指の名門伯爵家当主である自分が。


朝から女性の髪を梳かし

トリートメントをつけ

ポニーテールを結んでいるのだろう。


「…………。」


エドワードは鏡を見る。


鏡の中

拓海が欠伸をしている。


「ふぁぁぁ……。」


「…………。」


まあ

いいか


「できましたよ。」


「お。」


拓海が鏡を見る。

綺麗に整えられた黒髪。


「エド。」


「はい。」


「結構うまいじゃん^^」


「!」


「明日も頼むわ。」


「…………。」


エドワードの翡翠の瞳が輝いた。


「もちろんです!!」


こうして。


『正式な交際』とは何なのかすら曖昧なまま。


西欧の若き魔王は、恋人になるより先に、


”佐伯拓海専属の保護者兼美容係”へと就任したのであった……(笑)。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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