第五十七話 「玄関という境界線は、文明の衝突点だ」という話
「」→日本語
『』→英語
→すみませんが脳内変換してください!
成田から数時間。
拓海の実家、佐伯邸の門の前。
そこに辿り着いた瞬間――エドワードは足を止めた。
英国の石造りとは違う。
木と土と瓦が重なる構造を、彼は“要塞”として解析する目で見上げる。
『……タクミ』
静かな声。
『……あの窓のない、高強度の白い立方体(蔵)は……。……お前の”黒歴史”を、物理的に監獄しているのか?』
『……ただの物置だよ!! 俺の昔の剣道の道具とかだわ!!』
背後でジョージがシャッターを切りまくる。
『……サエキの過去の封印、……記録開始』
『やめろ!!』
『―さあさあ、上がってちょうだい』
母・絢子がにこやかに引き戸を開ける。
その瞬間。
エドワードが、目を見開いた。
『……タクミ。……何だ、あの”段差”は』
一拍。
『……さらに、皆が、自らの外装(靴)をパージしている……!!』
『……ただの玄関だよ!! 日本じゃ当たり前だろ、靴脱ぐの!!』
エドワードは、三和土の前で立ち尽くす。
まるで、重大な決断を迫られる騎士のように。
『……信じられん』
『……武装を解除し、……最も無防備な部位を晒せというのか』
『……清潔なだけだっつってんだろ!!』
『……サエキ』
横で、ジョージが震える手で靴紐を解き始める。
『……これは”服従の儀式”か』
『違ぇよ!!」
『…靴を奪い、逃走能力を構造的に制限する……。極東の権力構造恐るべし……』
『……お前ら、早く上がれ!! 渋滞してんだろ!!』
ようやく靴を脱ぎ、廊下へ上がる。
その先に広がっていたのは―和室。
イグサの香りが、空気に満ちている。
『……タクミ』
エドワードが、わずかに顔をしかめる。
『……この空間は…『植物の生命活動』が充満している』
『畳の匂いだよ!! 落ち着くだろ普通!!』
一歩、踏み込む。
足裏に伝わる、わずかな沈み。
『……床が沈む』
『畳だっつってんだろ!!」
『……構造的脆弱性が、限界を突破している』
『突破してねぇよ!!』
案内された客間。
そこで、エドワードは静かに固まった。
『……タクミ』
『今度はなんだよ』
『……この部屋には、「壁」がない』
『障子と襖だよ。開けりゃ広くなるだろ』
エドワードが、そっと紙に触れる。
わずかに、たわむ。
『……脆弱だ』
『……指一本で貫通する防護隔壁。プライバシーの強度は、ゼロに等しい』
一拍。
『……つまり、私が隣室からお前を観測していても、遮断する手段がない、と』
『いや、開けるな!! 覗くな!!』
『……さて』
低い声が落ちる。
振り向くと、和也が座っていた。
完全に、取り調べの構え。
『……ハミルトン』
静かな圧。
『……まずは『正座』から始めてもらおうか』
一拍。
『我が家の、接待(検問)だ』
「……セイ・ザ」
エドワードが復唱する。
『……関節の構造を破壊する、東洋の修行か』
『そうだ』
和也の目は笑っていない。
『……耐えられるかな?』
『タクミ。見ていろ』
エドワードが、ゆっくりと膝をつく。
『……ハミルトンの適応力アップデート―』
その瞬間。
長すぎる脚が、畳の上で処理しきれず。
『―ぐおっ!?』
そのまま横に滑り、崩れ落ちた。
「エドワード君!! 大丈夫!?」
菜摘が、お茶を持ったまま駆け寄る。
「……たっくん!! エドワード君、足が長すぎて畳に収まってない!! 規格外だよ!!」
「知らねぇよ!! 足が余ってんだよ!!」
ジョージが、静かに記録を取る。
【サエキ事変・入居初日】
ハミルトン様、『靴脱ぎ』による武装解除を受け、『畳』という粘性トラップにより物理的敗北。
さらに『障子』のスケルトン構造により、独占欲の全方位リークを確認。
佐伯邸――ここは、英国貴族にとっての精神的更地である。
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悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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