ハミルトン伯爵が幸せになるまで:30
書いてる分にはめっちゃ楽しいなこれ
『逃亡(潜伏)とは、長姉(詩織)の魔の手から逃れ、過保護魔王の隠れ家(別邸)へ転がり込んだ狂犬お嬢様(拓海)が、到着一秒で淑女の皮を脱ぎ捨てて「服貸せ! 飯食わせろ!」とソファへ転がり、若き伯爵を完全なる誘拐犯へ仕立て上げる現象のことであるという話』
【逃走中の車内】
~目的地と誘拐犯~
ブロロロロ……!
詩織の怒声を背後へ置き去りにして、車は学園都市を走り抜けていた。
運転席のジョージが、バックミラー越しに後部座席を見る。
「で。」
「どこ行く?^^」
「寮!!^^」
拓海が即答した。
しかし。
「駄目です!!」
その隣から、エドワードがさらに早く否定した。
「あ?」
「なんでだよ!」
「お姉様が真っ先に探す場所に決まっているでしょう!」
「じゃあどこ行けばいいんだよ!」
「…………。」
エドワードは少し考えた。
このままハミルトンホールへ連れていけば、あまりにも目立つ。
かといって寮へ戻せば、詩織に即座に捕獲される。
ならば。
「……私の別邸へ。」
「別邸?」
「ええ。」
「郊外にあります。」
拓海は少し考えた。
「飯ある?^^」
「あります。」
「行こう!!^^」
決断まで一秒だった。
ジョージが吹き出す。
「ハミルトン。」
「君、どんどん誘拐犯みたいになってきたねぇ^^」
「違う!!」
エドワードは即座に否定した。
「私は彼女を保護しているだけだ!」
「三階から飛び降りてきた女の子をキャッチして、
そのまま姉から引き離して自分の別邸へ連れて行くんだよ?」
「…………。」
「世間では何て言うんだろうね^^」
「…………保護だ。」
「はいはい^^」
こうして。
脱獄犯・佐伯拓海。
脱獄幇助の共犯者・エドワード・ハミルトン。
そして巻き込まれた運転手・ジョージ。
三人を乗せた車は、郊外にひっそりと建つハミルトン家の別邸へ向かった。
◆
【ハミルトン別邸】
~淑女、活動限界~
それから、しばらくして。
「こちらです。」
エドワードが拓海を案内したのは、ハミルトン家が所有する小規模な別邸だった。
小規模――とはいっても。
あくまで、ハミルトン家基準である。
拓海からすれば十分すぎるほど巨大な屋敷だった。
「おお……。」
拓海が建物を見上げる。
「お前んち、何軒あんだよ。」
「いくつか。」
「金持ち怖ぇな^^」
そして。
重厚な扉が開いた、その瞬間。
「あああああああ!!」
拓海が叫んだ。
エドワードが飛び上がる。
「な、何ですか!?」
「疲れたああああああ!!^^」
バサッ!
詩織によって綺麗に着せられていたジャケットが、床へ落ちた。
続いて
シュルッ。
襟元のリボンがほどかれる。
「くっそ! 苦しかった!!」
「拓海嬢!?」
「なんで女の服ってこんな動きづれぇんだよ!」
ブラウスの襟元を緩めながら、拓海は盛大に顔をしかめた。
詩織によって数日かけて再構築された『佐伯家の令嬢』が、ものの数秒で崩壊していく。
そして
拓海はエドワードを見る。
「おい、変態外人。」
「は、はい。」
「なんか楽な服貸せ。」
「え?」
「ジャージとかねぇの?」
「さすがに私の別邸に女性用のジャージは……。」
「じゃあ。」
拓海は何でもないことのように言った。
「お前のシャツでいいや^^」
「…………。」
「…………。」
エドワードが固まった。
「……私の?」
「おう。」
「でかいだろ?」
「…………。」
エドワードの顔が、見る見るうちに赤くなっていく。
(……私の服を……!?)
(私のシャツを、拓海嬢が……!?)
脳内。
自分には普通のサイズのシャツ。
しかし、拓海が着れば当然大きい。
袖は余る。
裾も長い。
つまり。
(……服がダボダボで……。)
(……いわゆる……彼シャツ状態の拓海嬢……ッ!?!?!///)
エドワードの思考回路が爆発した。
「…………ッ!!」
「なんだよ。」
「顔赤いぞ?」
「な、なんでもありません!!」
「風邪か?^^」
「違います!!」
後ろからジョージが冷静に言った。
「ハミルトン。」
「顔が気持ち悪いよ^^」
「うるさい!!」
◆
【リビング】
~野生、完全復活~
数分後。
結局
拓海はエドワードから借りた白いシャツに、
使用人が急遽用意した楽なパンツという姿でリビングへ戻ってきた。
エドワードのシャツは、やはり少し大きい。
袖口から出る手。
ゆったりとした肩。
「…………。」
エドワードは再び固まった。
(…………可愛い。)
(想像以上だ……。)
「エドー。」
「はい!!」
「飯!!^^」
「…………。」
現実はこれである。
拓海はそのまま最高級のソファへドカッと倒れ込み、裸足の足を投げ出した。
「あーーーー。」
「生き返るぅぅぅ……。」
そして。
使用人が運んできた肉料理を見た瞬間。
「肉ぅぅぅぅ!!^^」
跳ね起きた。
「うめぇ!」
「うめぇ!!」
「人間の飯だ!!!」
「お姉様のところでも人間の食事は出ていたでしょう!?」
「量が足りねぇんだよ!しかもマナー講座付きだぞ!」
エドワードは呆然と拓海を見る。
数日前
舞踏会で見た、あの完璧な令嬢。
美しいドレス。
優雅な立ち居振る舞い。
華麗なダンス。
あれは一体、何だったのか。
ジョージがコーヒーを飲みながら笑った。
「お姉様が何日もかけて教育した成果。」
「十分で全部消えたね^^」
「…………。」
エドワードはしばらく考え、
ソファの上で肉を頬張る拓海を見た。
「……いや。」
「?」
「こちらの方が拓海嬢らしい。」
灰色の瞳が柔らかく細められる。
「私は好きだ。」
ジョージが一瞬黙った。
「…………。」
そして肩をすくめる。
「君が幸せなら、もういいよ^^」
◆
【潜伏開始十五分後】
~終了のお知らせ~
その時、
別邸の電話が鳴った。
PRRRRR……。
「?」
拓海が肉を咥えたまま顔を上げる。
執事が電話を取った。
「はい。ハミルトン別邸でございます。」
一拍。
「……はい。」
さらに一拍。
執事の表情が、わずかに強張った。
「…………少々、お待ちくださいませ。」
受話器を押さえる。
そして、
ものすごく困った顔で、エドワードを見た。
「旦那様。」
「何だ?」
「……佐伯様のお姉様からでございます。」
「…………。」
エドワードが固まった。
ジョージが笑った。
「早かったねぇ^^」
そして拓海は。
「…………。」
手に持っていた肉を、静かに皿へ戻した。
「…………なんで。」
「なんでバレたあああああああああああ!?!?」
別邸中に絶叫が響き渡る。
こうして
狂犬お嬢様・佐伯拓海の華麗なる逃亡生活は……
**開始わずか十五分で、長姉に潜伏先を特定された**のであった……(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




