ハミルトン伯爵が幸せになるまで:27
拓海嬢は何も考えていないと思うんだ
『前進とは、舞踏会で木に登った娘の報告を受けた直後の日本の母親(絢子)へ「真剣なお付き合いを」と国際電話を掛け、「……はぁ?」と困惑されながらも、「とりあえず主人と本人に相談させてください」と返された過保護魔王が、「断られてはいない。つまり希望はある」と灰色の瞳を輝かせる現象のことであるという話』
【千代田区・佐伯家 & ハミルトンホール】
~混迷の国際回線~
受話器の向こうから聞こえたのは、母・絢子の静かな一言だった。
『……はぁ?』
一瞬の沈黙。
やがて、困惑を隠しきれない声が返ってくる。
絢子『……ええと。……どういうことでしょうか?』
エドワードは背筋を伸ばし、受話器を握る手に力を込めた。
「も、文字どおりです!」
「私は拓海嬢と、真剣にお付き合いをさせていただきたいと考えております!」
「何卒、ご理解を賜りたく……!」
電話の向こう。
千代田区の居間で、湯呑みを持ったまま絢子は静かに固まった。
(……ちょっと待ちなさい。)
(昨日、詩織から届いた報告は。)
(『舞踏会でお酒を飲みすぎて木へ登り、そのまま落ちました』だったわよね。)
(その数日後に。)
(どうして英国の伯爵様から交際のお申し込みが来るの……?)
思考が、まったく追いつかない。
一方、イギリスでは。
「何卒……!」
「何卒よろしくお願いいたします!!」
受話器へ向かって深々と頭を下げ続ける若き伯爵。
絢子は小さく息を吐いた。
『……ハミルトン様。』
「はい!」
『突然のお話で、少々驚いております。』
「……はい。」
『娘のことですので。』
『主人と、本人にも相談させていただけますか。』
エドワードの表情がぱっと明るくなる。
「もちろんです!」
「どうか、よろしくお願いいたします!」
絢子は穏やかに応じた。
『ありがとうございます。』
『それでは、失礼いたします。』
ツー……。
国際電話は静かに切れた。
◆
【ハミルトンホール・執務室】
~超絶前向き思考~
受話器をそっと置いたエドワードは、そのまま動かなくなった。
ジョージがコーヒーを片手に近づく。
「どうだった?^^」
しばらく沈黙したあと。
エドワードはゆっくりと顔を上げた。
翡翠の瞳には、希望の光が満ちている。
「……断られてはいない。」
「うん?」
「つまり。」
「まだ希望はある。」
「…………。」
「私は前進した!!」
ジョージは思わず吹き出した。
「ハミルトン。」
「そのポジティブ思考だけは、世界一だね^^」
エドワードは満足そうに頷いた。
「正攻法は、間違っていなかった。」
◆
【千代田区・佐伯家】
~年末の頭痛~
一方、電話を終えた絢子は、静かに湯呑みを置いた。
ふぅ、と一つ息をつく。
(……主人と本人に相談、とは言ったけれど。)
まず主人。
『うちの可愛い拓海に男だとぉぉぉ!?』
……百パーセント、この反応だろう。
次に本人。
『交際?』
『飯おごってくれる変態外人だぞ?^^』
……そんな返事しか返ってこない未来が容易に想像できた。
絢子は静かに天井を見上げる。
(……年末くらい。)
(穏やかに過ごせると思っていたのだけれど。)
そのささやかな願いは
イギリスから掛かってきた一本の国際電話によって、あっさりと打ち砕かれたのであった。
そして、佐伯家の年末は。
まだ誰も想像していない、新たな騒動へ向かって静かに動き始めるのだった……(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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