ハミルトン伯爵が幸せになるまで:23
拓海には「色気」という概念がない(`・ω・´)
『爆誕とは、長姉(詩織)の地獄の再教育をどうにか生き延びた狂犬お嬢様(拓海)が、ハミルトン家専属チームによって本来の美貌を解放され、その姿を見た過保護魔王の脳内で天使がラッパを吹き始める現象のことであるという話』
【女子寮前】
~再教育、修了~
数日後
女子寮の一室。
詩織は深く息を吐き、妹をじっと見つめた。
「……よし。」
「最低限、人前へ出せるわ。」
その声には達成感より、疲労感の方が色濃く滲んでいた。
拓海は両手を突き上げる。
「やったぁぁぁぁぁ!!^^」
「終わったぁぁぁ!!」
「もう風呂も毎日入った!」
「姿勢もやった!」
「敬語もやった!」
「俺、頑張った!!^^」
詩織は静かに頷く。
「ええ。」
「本当によく頑張ったわ。」
「……私が。」
拓海
「俺じゃねぇの!?^^」
その時。
コンコン。
部屋のドアが叩かれた。
「佐伯様。」
「ハミルトン家より、お迎えに参りました。」
拓海の目が輝く。
「おっ!」
「飯だ!!^^」
「違います。」
詩織のツッコミと同時に、背中へ軽い手刀が落ちる。
「姿勢。」
「はいっ!!^^」
こうして、最低限の令嬢教育を終えた拓海は、黒塗りのリムジンへ乗り込んだ。
◆
【女子寮前】
~迎え~
リムジンの横には、一人の青年が立っていた。
黒のコート。
白い手袋。
いつもどおり隙のない身なり。
エドワード・ハミルトンである。
ドアが開く。
そこから現れたのは、ジャージではない拓海だった。
落ち着いたワンピースにロングコート。
髪もきちんと整えられている。
その姿を見た瞬間。
エドワードは止まった。
「…………。」
翡翠の瞳がゆっくり見開かれる。
(……可愛い。)
(…………。)
(可愛い。)
思考が、それ以上進まない。
ジョージは苦笑した。
「ハミルトン。」
「語彙力が消滅してるよ^^」
エドワードは小さく頷いた。
「……ああ。」
「可愛い。」
「それしか出てこない。」
◆
【ハミルトンホール】
~魔王、本気を出す~
リムジンがホールへ到着すると、執事たちが一斉に頭を下げた。
「佐伯様。」
「お支度のお時間でございます。」
拓海は首を傾げる。
「え?」
「もう服着てるぞ?^^」
「こちらはご移動用のお召し物でございます。」
「本番は、これからです。」
「は?^^」
次の瞬間。
専属スタイリスト。
美容師。
ドレスフィッター。
アクセサリー担当。
総勢十数名が一斉に動き出した。
「えっ。」
「ちょっ。」
「待っ………。」
「うわぁぁぁぁ!!」
そのまま拓海は、更衣室へ連行されていった。
一方その頃。
廊下では
エドワードが落ち着きなく歩き回っていた。
「ジョージ。」
「まだなのか。」
「あとどれくらい掛かる。」
「五分前にも聞いたよ^^」
「落ち着きなって。」
「落ち着けるものか。」
「今日という日のために、私は何日待ったと思っている。」
◆
【大広間前】
~奇跡~
やがて
重厚な扉が、静かに開かれた。
エドワードが選び抜いた純白のドレス。
丁寧に結い上げられた黒髪。
繊細なアクセサリー。
飾り立てたから美しいのではない。
もともと持っていた美しさが、初めてそのまま姿を現した。
誰もが息を呑む。
エドワードも。
「…………。」
動けない。
その頭の中では。
パァァァァァン!!
天使がラッパを吹き。
教会の鐘が鳴り響き。
色とりどりの花びらが舞い散り。
「おめでとうございます!」
「末永くお幸せに!」
なぜか祝福の大合唱が始まっていた。
ジョージは額を押さえる。
「ハミルトン。」
「これ舞踏会。」
「結婚式じゃないから^^」
ようやく現実へ戻ったエドワードは、目を潤ませながら小さく呟いた。
「……美しい。」
「世界で、一番。」
その感動を、当の本人が一秒で粉砕する。
拓海はコルセットをぐいぐい引っ張りながら、不満そうに顔をしかめた。
「なぁ。」
「これ。」
「腹いっぱい飯食えねぇじゃん!(・д・)チッ」
世界最高峰のドレスも。
若き伯爵の恋心も。
狂犬お嬢様の胃袋には、最後まで勝てなかったのだった……(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




