ハミルトン伯爵が幸せになるまで:21
マイフェアレディ作戦?(違)
『受諾とは、西欧の若き伯爵が待ち続けた返事が千代田区の母(絢子)から届けられた瞬間であり、同時に狂犬お嬢様(拓海)へ地獄の再教育が宣告された現象のことであるという話』
【エディンバラ行き列車】
~母娘会議~
スコットランド・エディンバラへ戻る列車。
窓の外を流れる景色を眺めながら、詩織は母・絢子へ最終報告をしていた。
「……お母様。」
「ハミルトン様ですが、お電話で受けた印象と変わりありませんでした。」
「とても礼儀正しく、誠実で、紳士的な方です。」
受話器の向こうで、絢子は静かに頷く。
『そう。』
『それなら安心ね。』
詩織は苦笑した。
「……問題なのは。」
「完全に拓海の方です。」
『でしょうね。』
即答だった。
「ジャージ姿で電動キックボードを乗り回し、男子学生と取っ組み合いをして、
部屋は令嬢とは思えない状態で……。」
「舞踏会も、『タダでご飯が食べられるイベント』くらいにしか思っていません。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて絢子は静かに口を開いた。
『詩織。』
『あなたがそこまで言うのなら、ハミルトン様に反対する理由はありません。』
『舞踏会への参加は許可しましょう。』
詩織は小さく微笑んだ。
「はい。」
しかし、次の一言でその笑顔は消える。
『ただし。』
『詩織。』
『舞踏会まで、まだ時間がありますね?』
「…………。」
嫌な予感しかしない。
『拓海を、人前へ出せる程度には整えてちょうだい。』
詩織は深く、本当に深くため息をついた。
「……承知しました。」
「ハミルトン様を調べるより、あの子を令嬢らしくする方が何倍も難しそうですが……。」
『お願いね。』
『よろしく頼みます。』
電話が切れる。
こうして、佐伯家による【狂犬お嬢様・再教育計画】が静かに始動した。
◆
【千代田区・佐伯家】
~一本の電話~
絢子は受話器を置くと、すぐにもう一つの番号を押した。
数回のコール音。
『……はい。ハミルトンでございます。』
張りつめた、それでいてどこか緊張した青年の声。
「佐伯です。」
その一言だけで、電話の向こうが静まり返る。
「先日は、ご丁寧なお電話をありがとうございました。」
『い、いえ……!』
「娘とも相談いたしました。」
一拍。
「舞踏会への参加、お受けいたします。」
受話器の向こうで、小さく息を呑む音がした。
『……本当、ですか。』
「ええ。」
「ただ一つ。」
「まだ世間知らずな娘です。」
「どうか、よろしくお願いいたします。」
エドワードは自然と背筋を伸ばした。
「……はい。」
「必ず、お預かりいたします。」
「ありがとうございます。」
電話が静かに切れる。
◆
【ハミルトンホール】
~歓喜~
受話器を置いたまま、エドワードは動かなかった。
ジョージが顔を覗き込む。
「……ハミルトン?」
「返事は?^^」
エドワードはゆっくり顔を上げた。
灰色の瞳はうっすらと潤んでいる。
「……許可を。」
「いただけた。」
執務室が一瞬静まり返る。
次の瞬間。
「おおおおおお!!」
「おめでとうございます!!」
執事たちの拍手が響く。
ジョージも笑いながら肩を叩いた。
「よかったね。」
「これで舞踏会に来てもらえる。」
エドワードは静かに頷く。
「ああ。」
「必ず、最高の一日にする。」
その頃、当の拓海は学園都市の芝生で昼寝をしながら、大きなくしゃみをしていた。
「ぶぇっっっっくしょい!!!!^^」
「……なんか嫌な予感がする……。」
◆
その頃。
エディンバラでは。
一人の姉が静かに腕まくりをしていた。
「さて。」
「まずはジャージを没収しましょうか。」
狂犬お嬢様・佐伯拓海。
地獄の再教育開始まで─あとわずか。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




