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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:19

もうゆっくり展開でいいや(開きなおり)

『長姉(監査)とは、妹の部屋でケチャップとビールと謎の工具を見つけて頭を抱えつつも、机の上の家族写真とお守りに胸を撫でおろし、直後に「舞踏会? 飯食いに行くだけだろ?^^」と吐かした妹に「このバカ娘!!!」と雷を落とす存在のことであるという話』


【学園都市・広場】

~姉、降臨~


昼休みの広場。

今日もジャージ姿の佐伯拓海は、男子学生たちと大笑いしながら騒いでいた。


その背後に、一人の女性が静かに立つ。


「──拓海。」


聞き慣れた声に、拓海の肩がビクリと跳ねた。


ゆっくり振り返る。


「……ゲッ。」


「ね、ねーちゃん……!!」


詩織は柔らかく微笑む。


「久しぶり。」


「お母様に頼まれてね。」


「少し様子を見に来たの。」


その笑顔は優しい。

だが、佐伯家の次女だけは知っている。

この笑顔の裏側を。


「……もちろん。」


「部屋くらい案内してくれるわよね?^^」


拓海は小さく舌打ちした。


「……(・д・)チッ」


「なあに?^^」


「──ナンデモナイデス!!!!^^」


絶対王政。

佐伯家長女・詩織の前では、無敵の拓海も借りてきた猫である。



【女子寮】

~狂犬の巣穴~


「……ここ。」


ガチャ。


部屋へ入った詩織は、その場で静止した。


「…………。」


そこは令嬢の部屋とは到底思えない光景だった。


ベッドは布団が丸まったまま。

教科書は床や机に積み上がり、

椅子にはジャージが掛かり、

床にはコンビニ袋。

隅にはなぜかスパナ。

さらに電動キックボードが充電中である。


詩織は静かに拓海を見る。


「……あなた。」


「一応、令嬢よね?」


「そうだっけ?^^」


悪びれる様子は一切ない。


詩織は額を押さえながら冷蔵庫を開けた。


中には、


ケチャップ。

マヨネーズ。

牛乳。

エールビール。

徳用ソーセージ。


「野菜は?」


「あと卵あれば生きていける^^」


「生きられません。」


今度はクローゼットを開ける。


「……ドレスは?」


「日本から持ってきた服は?」


「なんかそのへん^^」


指差した先には、洗濯済みかどうかも怪しい服の山。


「……洗ってあるの?」


「たぶん^^」


「『たぶん』じゃありません。」


深いため息が部屋に響いた。


【机の上】

~姉だけが知る安心~


「教科書は本棚。」


「服は畳む。」


「ゴミは捨てる。」


一通り説教を終えた詩織は、ふと机へ目を向けた。


そこだけは、不思議なくらい綺麗だった。


家族全員で撮った写真。

渡英の日、母から渡されたお守り。

日本から届いた荷物。


どれも大切に並べられている。


詩織は少しだけ目を細めた。


(……。)


(ちゃんと頑張っているのね。)


(家族のことも忘れていない。)


異国の地で、自分なりに踏ん張っている妹。


その事実だけで十分だった。


自然と口元が緩む。



【締め】

~一秒で崩壊する姉の感動~


片付けも終わり、詩織は穏やかな表情で尋ねた。


「ところで、拓海。」


「ん?」


「舞踏会には何を着て行くつもり?」


拓海は首を傾げる。


「舞踏会?」


「飯食いに行くだけだろ?^^」


詩織の笑顔が止まった。


「……ドレスは?」


「エドが何とかするって^^」


一瞬の沈黙。


「──このバカ娘がぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「ギャアァァァァッ!!」


学園都市の女子寮に、姉の雷が落ちた。


こうして、小一時間かけて積み上げた姉妹の感動は、「飯食いに行くだけだろ?^^」の一言で、

見事に木っ端微塵になったのだった……(笑)。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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