ハミルトン伯爵が幸せになるまで:19
もうゆっくり展開でいいや(開きなおり)
『長姉(監査)とは、妹の部屋でケチャップとビールと謎の工具を見つけて頭を抱えつつも、机の上の家族写真とお守りに胸を撫でおろし、直後に「舞踏会? 飯食いに行くだけだろ?^^」と吐かした妹に「このバカ娘!!!」と雷を落とす存在のことであるという話』
【学園都市・広場】
~姉、降臨~
昼休みの広場。
今日もジャージ姿の佐伯拓海は、男子学生たちと大笑いしながら騒いでいた。
その背後に、一人の女性が静かに立つ。
「──拓海。」
聞き慣れた声に、拓海の肩がビクリと跳ねた。
ゆっくり振り返る。
「……ゲッ。」
「ね、ねーちゃん……!!」
詩織は柔らかく微笑む。
「久しぶり。」
「お母様に頼まれてね。」
「少し様子を見に来たの。」
その笑顔は優しい。
だが、佐伯家の次女だけは知っている。
この笑顔の裏側を。
「……もちろん。」
「部屋くらい案内してくれるわよね?^^」
拓海は小さく舌打ちした。
「……(・д・)チッ」
「なあに?^^」
「──ナンデモナイデス!!!!^^」
絶対王政。
佐伯家長女・詩織の前では、無敵の拓海も借りてきた猫である。
◆
【女子寮】
~狂犬の巣穴~
「……ここ。」
ガチャ。
部屋へ入った詩織は、その場で静止した。
「…………。」
そこは令嬢の部屋とは到底思えない光景だった。
ベッドは布団が丸まったまま。
教科書は床や机に積み上がり、
椅子にはジャージが掛かり、
床にはコンビニ袋。
隅にはなぜかスパナ。
さらに電動キックボードが充電中である。
詩織は静かに拓海を見る。
「……あなた。」
「一応、令嬢よね?」
「そうだっけ?^^」
悪びれる様子は一切ない。
詩織は額を押さえながら冷蔵庫を開けた。
中には、
ケチャップ。
マヨネーズ。
牛乳。
エールビール。
徳用ソーセージ。
「野菜は?」
「あと卵あれば生きていける^^」
「生きられません。」
今度はクローゼットを開ける。
「……ドレスは?」
「日本から持ってきた服は?」
「なんかそのへん^^」
指差した先には、洗濯済みかどうかも怪しい服の山。
「……洗ってあるの?」
「たぶん^^」
「『たぶん』じゃありません。」
深いため息が部屋に響いた。
◆
【机の上】
~姉だけが知る安心~
「教科書は本棚。」
「服は畳む。」
「ゴミは捨てる。」
一通り説教を終えた詩織は、ふと机へ目を向けた。
そこだけは、不思議なくらい綺麗だった。
家族全員で撮った写真。
渡英の日、母から渡されたお守り。
日本から届いた荷物。
どれも大切に並べられている。
詩織は少しだけ目を細めた。
(……。)
(ちゃんと頑張っているのね。)
(家族のことも忘れていない。)
異国の地で、自分なりに踏ん張っている妹。
その事実だけで十分だった。
自然と口元が緩む。
◆
【締め】
~一秒で崩壊する姉の感動~
片付けも終わり、詩織は穏やかな表情で尋ねた。
「ところで、拓海。」
「ん?」
「舞踏会には何を着て行くつもり?」
拓海は首を傾げる。
「舞踏会?」
「飯食いに行くだけだろ?^^」
詩織の笑顔が止まった。
「……ドレスは?」
「エドが何とかするって^^」
一瞬の沈黙。
「──このバカ娘がぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ギャアァァァァッ!!」
学園都市の女子寮に、姉の雷が落ちた。
こうして、小一時間かけて積み上げた姉妹の感動は、「飯食いに行くだけだろ?^^」の一言で、
見事に木っ端微塵になったのだった……(笑)。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




