ハミルトン伯爵が幸せになるまで:14
その50までは終わらせたいです(`・ω・´)
『暗闘とは、舞踏会を諦めきれない西欧の過保護魔王が、人生最高難度の「母上(絢子)攻略」を決意する一方、日本では母・絢子が「娘・舞踏会・男」の三点を一本に繋ぎ、見えない包囲網を張り巡らせる現象のことである』という話
【ハミルトンホール・執務室】
~魔王、開戦~
「……このままでは駄目だ。」
誰もいない執務室に、エドワードの低い声が響いた。
窓の外では雪が舞っている。
机の上には、舞踏会へ向けて用意したドレスのデザイン画、宝飾品の資料、招待客名簿。
”すべては、佐伯拓海を最高のレディとして迎えるため”
そのすべてが、日本への帰省によって水泡に帰そうとしていた。
「……認められない。」
エドワードの灰色の瞳が鋭く光る。
「何としても、拓海嬢には英国へ残っていただく。」
そこへ、書類を抱えたジョージが入ってきた。
「嫌な予感しかしないんだけど。」
「ジョージ。」
「はいはい。」
「案がある。」
「聞くだけ聞こう。」
エドワードは真剣な表情で立ち上がる。
「まず。」
「ハミルトン家所有の航空機をすべて押さえる。」
ジョージは即答した。
「却下。」
「では。」
「英国発日本行きの航空便を全面運休……」
「却下。」
「大学行事として舞踏会を必修化し……」
「却下。」
「欠席者は留年……」
「却下。」
「……。」
「ハミルトン。」
ジョージは額を押さえた。
「犯罪じゃない方法だけ考えよう。」
執務室に静寂が落ちる。
しばらく考え込んだエドワードは、ゆっくりと顔を上げた。
「……分かった。」
「ついにまともな案?」
「正攻法で行く。」
「ほう。」
「お母上へ、ご挨拶する。」
ジョージの笑顔が消えた。
「……。」
「……。」
「一番難しいルート選んだね。」
「人生で最も勝率が低そう。」
エドワードは静かに頷く。
「それでも。」
「私は逃げない。」
ジョージは小さくため息をついた。
「本当に恋って人を馬鹿にするんだねぇ。」
◆
【日本・千代田区 佐伯家】
~母の勘~
一方、その頃。
国際電話を終えた絢子は、静かに湯呑みへ手を伸ばした。
温かいお茶を一口、
ふぅ、と息をつく。
「……舞踏会。」
その一言で、部屋の空気が変わった。
娘
イギリス
舞踏会
そして、
男
頭の中で、四つの言葉が一本の線で繋がる。
絢子は静かに目を閉じる。
(……待ちなさい。)
(あの拓海が。)
(舞踏会……?)
幼い頃は髪飾りを引きちぎり、泥だらけで庭を駆け回り、御神木へ登って神主を泣かせた娘。
今でも放っておけばジャージ姿で街を駆け回る野生児。
その娘が、舞踏会。
どう考えても、拓海自身の発想ではない。
つまり……誰かがいる。
絢子は静かにスマートフォンを手に取った。
「……詩織。」
数回のコール音のあと、穏やかな声が返ってくる。
『お母様?』
「少し、頼みたいことがあるの。」
『拓海のこと?』
「ええ。」
「拓海がね、クリスマスに舞踏会へ招待されたそうなの。」
受話器の向こうで、わずかな沈黙が流れた。
『……舞踏会?』
「そう。」
「だから少し見てきてほしいの。」
「その方がどんな方なのか。」
「それと…拓海が、向こうでどんな様子で過ごしているのかも。」
詩織は静かに頷いた。
『分かった。』
『直接会えるかは分からないけど、大学の時の知り合いにも聞いてみる。』
『拓海の様子も、ちゃんと見ておくね。』
「お願い。」
通話を終え、絢子は静かにスマートフォンを置いた。
遠く離れた英国では、娘を引き留めようと知恵を巡らせる若き伯爵。
エディンバラでは、妹を案じる姉が静かに動き始める。
そして日本では、一人の母が、まだ見ぬ青年の素性を知るため最初の一手を打った。
クリスマスまで、あとわずか。
若き魔王と最強の母。
その間を繋ぐ長女・詩織。
三人それぞれの思惑が、静かに交差し始めようとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




