ハミルトン伯爵が幸せになるまで:13
引き止められればいいね―エドワード^^
『水泡とは、クリスマス舞踏会へ招待しようと満を持して歩み寄った過保護魔王が、母からの一本の電話で「クリスマス休暇は日本へ帰るわ^^」と告げられ、何も言えないまま灰色の瞳ごと完全停止する現象のことである』という話
【学園都市・講義棟前】
~クリスマス休暇~
講義が終わると、キャンパスはどこか浮き足立っていた。
「クリスマス休暇、実家帰る?」
「俺はスコットランド!」
「彼女と旅行!」
「いいなー!」
学生たちが思い思いの予定を語り合う。
その輪の中で、拓海もジュース片手に笑っていた。
「俺?」
「まだ決めてねぇなぁ^^」
「飛行機代高ぇし。」
「向こうも結構楽しいんだよな。」
「マーケットもう一回行きてぇ。」
周囲から笑いが起こる。
少し離れた場所では、その様子を見つめる二人の青年がいた。
「……今だ。」
エドワードが静かに呟く。
ジョージはコーヒーを片手に肩をすくめた。
「今しかないね。」
「クリスマス舞踏会へ誘うんだろ?」
「……ああ。」
エドワードは深く息を吸い、意を決して歩き出した。
(今日こそ。)
(今日こそ必ず、お誘いする。)
一歩。
また一歩。
拓海まであと数メートル。
その時だった。
♪♪♪
スマートフォンが鳴る。
「あ。」
拓海が画面を見る。
「かーちゃんだ^^」
何の躊躇もなく電話へ出た。
「もしもしー?」
周囲に丸聞こえである。
「えーー。」
「クリスマスぅ?」
「めんどくせぇなぁ。」
エドワードの足が止まる。
「飛行機高ぇし。」
「俺もう予定あるし^^」
その一言に、エドワードの表情が明るくなる。
(予定。)
(ある。)
(よかった……。)
しかし。
「予定?」
拓海が笑う。
「マーケット行ったりさ。」
「舞踏会とか。」
エドワードの胸が高鳴る。
その直後。
「えーー。」
「マジで?」
「……わかったよ。」
「クリスマス休暇は帰れってかーちゃんが^^」
静寂………
エドワードは立ち止まったまま動かない。
「……。」
「…………。」
「………………。」
ジョージが顔を覗き込む。
「ハミルトン?」
返事はない。
「魂どっか行った?」
エドワードはゆっくり口を開く。
「……日本へ。」
「帰るのか。」
「うん。」
ジョージはあっさり頷く。
「実家あるしね。」
「……。」
「では。」
「舞踏会は……?」
「欠席じゃない?」
その一言が決定打だった。
エドワードはその場で静かに項垂れる。
肩から力が抜け、翡翠の瞳から光が消えていく。
「……。」
「ハミルトン。」
「……。」
「泣いてる?」
「……泣いてない。」
「涙出てるけど。」
「……これは違う。」
ジョージは苦笑した。
「まだ何も始まってないのに失恋した顔しないでよ。」
その頃。
当の拓海は電話を切ると、友人たちへ向き直って笑っていた。
「いやー、かーちゃんには逆らえねぇんだよな^^」
「クリスマス、帰省になりそう!」
その言葉を聞いたエドワードは、再び静かに固まる。
(帰省。)
(舞踏会。)
(ドレス。)
(ティアラ。)
(…………。)
完全停止。
ジョージは肩をすくめた。
「……ハミルトン。」
「君のクリスマスは、まだ始まってもいないらしいね。」
翡翠の瞳が、ゆっくりと光を取り戻す。
エドワードは静かに拳を握り締めた。
「……まだだ。」
「クリスマスまで、まだ時間はある。」
「必ず拓海嬢を舞踏会へお連れする。」
ジョージは小さく笑う。
「出たよ。」
「その自信、どこから来るんだか。」
こうして
若き魔王エドワード・ハミルトンの、「クリスマス帰省阻止作戦」が幕を開けるのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




