ハミルトン伯爵が幸せになるまで:11
何されても言われてもうれしいエドワード
『契約とは、クリスマス直前まで声すら掛けられず尾行を続けていた過保護魔王が、「またパンツか?^^」と即バレして開き直り、勇気を振り絞って誘ったクリスマスマーケットを「奢りならいいぜ^^」と一秒で快諾され、連絡先を手に入れた瞬間「天使が微笑んだ」と歓喜フリーズする現象のことである』という話
【講義棟・廊下】
~十二月目前~
若き伯爵エドワード・ハミルトンは、この日、人生最大級の決意を固めていた。
(……今日こそ。)
(今日こそ拓海嬢をクリスマスマーケットへお誘いする。)
(そして、その流れでハミルトン家の舞踏会へ――。)
そこまで考えたところで、顔が真っ赤になる。
「……。」
「よし。」
小さく拳を握る。
「今日だ。」
◆
しかし。
決意とは裏腹に
エドワードの足は今日も拓海の十メートル後方を歩いていた。
拓海が歩けば歩く。
止まれば止まる。
曲がれば曲がる。
完全なる尾行である。
その少し後ろで、
ジョージは頭を抱えていた。
「……ハミルトン。」
「何だ。」
「それ。」
「声掛ける前に捕まるやつ。」
「違う。」
「タイミングを見計らっている。」
「十五分?」
「慎重なのだ。」
「慎重すぎる。」
その時だった。
拓海が講義棟の角を曲がる。
「今だ!」
エドワードが勢いよく角を曲がった瞬間……。
「おい。」
「っ!!?」
壁にもたれた拓海が、腕を組んで待っていた。
◆
「最近さぁ。」
拓海はニヤリと笑う。
「ずっと俺の後ろついて来てるよな?^^」
「…………。」
「またパンツ見たいのか?^^」
「今日はジャージだから見えねぇぞ?」
「…………。」
エドワードの思考が完全停止する。
(気付かれていた。)
(しかも。)
(笑った。)
(私に。)
(天使が。)
(微笑んだ。)
「……ハミルトン?」
ジョージが小声で呟く。
「帰ってこーい。」
◆
エドワードは深く息を吸った。
(逃げるな。)
(今日を逃せば、来年になる。)
(勇気を出せ。)
「さ……。」
「さ?」
「佐伯拓海嬢!!」
「はいはい。」
「ク……。」
「ク?」
「クリスマスマーケットへ!!」
「私と一緒に行っていただけませんか!!」
廊下中へ響き渡る大声。
通りすがりの学生たちまで振り向いた。
静寂。
拓海は首を傾げる。
「クリスマスマーケット?」
「はい。」
「飯ある?」
「あります。」
「甘いもんも?」
「あります。」
「ホットドッグは?」
「あります。」
「……。」
「奢り?」
「もちろんです。」
「行く^^」
一秒だった。
◆
その瞬間。
エドワードの世界から音が消えた。
(……承諾。)
(してくださった。)
(私と。)
(クリスマスマーケット。)
(天使が。)
(微笑んだ。)
幻覚か。
拓海の背中に白い翼が見える。
後光まで差している。
ジョージは現実へ引き戻す。
「ハミルトン。」
「固まってる場合じゃない。」
「あ。」
「れ……。」
「連絡先を。」
「交換しないと。」
「!!」
エドワードは慌ててスマートフォンを取り出す。
「れ、れれれれ連絡先を!!」
「いいぞ^^」
拓海は何の躊躇もなくスマホを差し出した。
『佐伯拓海』
登録完了。
「…………。」
エドワードは画面を見つめたまま動かない。
「やった。」
小さく呟く。
「人生初だ。」
「連絡先をいただけた。」
ジョージは吹き出した。
「いや、そこまで感動する?」
「する。」
「そう。」
◆
「じゃ!」
拓海はスマホをポケットへしまう。
「当日よろしくな!」
「変態外人^^」
肩をポンポンと叩き、そのまま教室へ入っていく。
静かな廊下。
エドワードは微動だにしない。
ジョージが顔を覗き込む。
「……ハミルトン?」
「名前。」
「ん?」
「最後まで。」
「名前で呼ばれなかった。」
「そこ?」
「そこだ。」
ジョージは堪えきれず吹き出した。
「クククッ……!」
「変態外人から始まる恋愛なんて、世界中探しても君くらいだよ。」
こうして。
西欧の魔王は「変態外人」へと昇格しながらも、人生初のクリスマスデートを勝ち取った。
なお
本人だけは、その日が人生最大の勝利だったことを疑っていなかったのである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




