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ハミルトン伯爵が幸せになるまで:3

出会いはいつも突然に^^

『運命(一目惚れ)とは、金髪と翡翠の瞳を持つ冷徹な若き次期伯爵エドワードが、完璧な猫のかぶり顔で書類を抱える可憐な東洋の少女(拓海)に心を奪われたその瞬間、当の本人は「腹減った。母ちゃん早く帰れ」としか考えていない現象のことである』という話


******************


【英国・学園都市】

~母の監視下、擬態コンパイル中~


「この子を急に一人で渡英させたら、初日から何をやらかすか分からないわ……。」


母・絢子は、本気だった。


高校卒業まで何度も「猫」を被り、そのたびに放課後には野生へ戻っていた娘。


そんな拓海を異国へ一人で放り出す勇気など、とても持てない。


結局、最初の一か月だけは一緒にロンドンへ渡り、生活の基礎から公共交通機関の乗り方まで、

徹底的に叩き込むことになった。


その成果は………


十月。


大学恒例のウェルカムイベントで、見事に発揮される。


長く艶やかな黒髪。

控えめな化粧。

凛とした立ち姿。

胸元には分厚い書類を抱え、視線は少し伏せ気味。


誰が見ても、”良家で大切に育てられた才色兼備のお嬢様”。


会場を歩けば、自然と人の視線が集まる。


「あの人……綺麗。」


「日本から来た留学生らしいよ。」


「まるで映画みたい……。」


拓海は、そんな視線にも気付かないまま、小さく会釈を返して歩いていた。


もちろん。

それも全部、母直伝の『完璧な猫のかぶり方』である。



【運命の瞬間】


その姿を、遠くから見つめる青年がいた。


金髪。

翡翠色の瞳。

誰もが一歩引くほど整った容姿と、近寄り難い空気。


”エドワード・ハミルトン”


病床の父に代わり、若くしてハミルトングループを支える次期伯爵。


学生でありながら経営者。

冷静沈着。

感情を表に出さないことで知られる青年だった。


その彼が、不意に足を止める。


「……ジョージ。」


「何?」


「あの女性は。」


ジョージは視線を追う。


「ああ、日本から来た留学生。佐伯拓海さんだね。」


「……そうか。」


それだけだった。


表情は変わらない。

声色も変わらない。


だが、ジョージは長い付き合いだった。

だからこそ分かる。


(あ。)


(終わった。)


(ハミルトン様、恋に落ちた。)


エドワードはもう一度だけ、少女を見る。


整った所作。

静かな笑顔。

慎ましやかな立ち振る舞い。


……美しい。


その一言だけが、心の中へ静かに落ちた。

気付けば、自然と視線で追っていた。


人生で初めてだった。

誰かを、もっと知りたいと思ったのは。



【一方その頃】


可憐なお嬢様として歩く拓海。

その脳内では。


(……だりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!)


(ガウン重い!!)


(肩凝る!!)


(腹減った!!)


笑顔を浮かべたまま、

心の中だけは全力で暴れていた。


(母ちゃん、いつ日本帰るんだよぉぉぉぉ!!)


(帰ったら真っ先にこのガウン脱いでやる!!)


(フィッシュ&チップス食って街歩いて、面白そうな店見つけて、好き勝手遊ぶんだ!!)


「佐伯さん?」


「はい^^」


「楽しそうですね。」


「ええ、とても^^」


大嘘である。

頭の中は食べ物と自由のことでいっぱいだった。



この日。

エドワード・ハミルトンは、生涯でただ一人の女性に恋をした。


そして、その女性……佐伯拓海は。


「腹減った。」


「母ちゃん早く帰れ。」


としか考えていなかった。


後にハミルトン家を巻き込み、世界有数の財閥総帥を

「世界一面倒くさい恋する伯爵」へと変えてしまう、

人生最大の勘違い。


そのすべては、この静かな一目惚れから始まったのである。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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