表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/369

第五十四話 「兵站(パッキング)は、異界への「生存戦略」だ」という話

だからエドワード、お前何がしたいんだw

六月下旬。出発前夜。

ハミルトン邸の客室は、すでに「荷造り」という概念を逸脱していた。


床一面に並ぶ、巨大なアルミスーツケース数基。

その周囲を、白衣のジョージがストップウォッチ片手に走り回っている。


「……ハミルトン様! 第3コンテナ、……対・湿気用シリカゲルの充填率、限界を突破しました! これ以上の圧縮は危険です(物理的な強度が持ちません)!」


「……構わん」


エドワードは一切迷わない。


「……日本の『ナツ』の粘性は、……英国人の皮膚呼吸を停止させると聞く。予備のドライアイス・ユニットを追加しろ」


「……イエス・サー!!」


そこに。

自分の着替えを数枚、適当なカバンに放り込んだだけの拓海が現れた。

目は、完全に死んでいる。


「……おい」


一拍。


「……お前ら、宇宙にでも行くのか?」


「……タクミ。遅いぞ」


エドワードは、ピンセットで“何か”を透明ケースに収めていた。


「……確認だ。…お前の実家、『セイク・ホーム』の電圧変動係数を教えろ。

私の特注・冷感枕(水冷式)がショートすれば、脳細胞の構造が熱暴走を起こす」


「……知らねぇよ!! 普通に100ボルトだよ!!」


一拍。


「あと枕に水通すな!! 漏れたら感電するだろ!!」


ジョージが、仰々しく一つのアタッシュケースを開いた。


中には、びっしりと並ぶ試験管。


「サエキ。これは、ハミルトン家化学班が調製した『対・ナツミ用・精神安定香料アロマ』だ」


「……何だよそれ。毒ガスか?」


「……違う」


静かな否定。


「……ナツミという個体が放つ、『タッ・クン』という音声デバフ。

それを浴びた瞬間、ハミルトン様の理性が『嫉妬バグ』を起こすのを防ぐための鎮静剤だ」


「……嫉妬って認めちゃってるじゃねぇか!!」


即ツッコミ。


「自分でコントロールしろよ!!」


エドワードは、巨大な日本地図を広げた。

赤と青のピンが、異様な密度で刺さっている。


「……タクミ。……成田空港からお前の実家までの移動ルートだ」


「嫌な予感しかしねぇ」


「……最短距離ハイウェイは却下した」


「なんでだよ」


「……敵性個体サトウによる奇襲の可能性がある」


「ねぇよ!!」


即答だった。


「当日は一度千葉の海岸線を迂回し、…地磁気の乱れを利用してステルス移動を行う」


「誰に追われてんだよ!!」


「サトウだ」


「ただの高校生だっつってんだろ!!」


深夜。

最終確認が行われる。


没収された液体窒素タンクの代わりに。

エドワードは、なぜか「イギリスの空気(缶詰)」を隙間なく詰め込んでいた。


「……タクミ」


満足げな声。


「……準備は、構造的に完了した」


拓海は、ゆっくりと目を閉じた。


「……ああ、そうだな」


一拍。


「俺の胃の構造が、日本に着く前に壊れそうだけどな」


エドワードが、そっと肩に手を置く。


「…案ずるな」


静かな声。


「お前の実家という名の『聖域テリトリー』」


一瞬の間。


「私が、ハミルトンの基準にアップデートしてやろう」


「おい余計なお世話だ!!」


即答だった。


「そのままの姿で残しておいてくれ!!」


ジョージは、静かにペンを走らせる。


【サエキ事変・日本遠征前夜】


ハミルトン、日本のインセクト対策として『レーザー狙撃ドローン』の持ち込みを断念。

代わりに、『圧倒的な財力(お土産)』による経済的圧迫作戦へとシフト。

……明日、極東の地は、ハミルトンという名の『台風』に直撃される。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ