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第五十三話 「帰省の報告は、家庭内に波紋を呼ぶ」という話

波乱?の夏休み突入ですかね

五月下旬、試験結果は、静かに掲示された。

人だかりの中で、自分の名前を見つける。


(……あった)


目立ちはしないが、悪くもない。


「……まぁ、こんなもんか」


「……タクミ」


隣に立つエドワードは、すでに確認を終えていた。


「問題ない」


「便利だな、それ」


「事実だ」


「お前は」


「上位だ」


「だろうな」


一拍。


「……お前も、通っている」


「だから毎回それ何なんだよ」


「評価だ」


「ふわっとしてんな」


その日の夕方。

寮の部屋で、拓海はスマホを手に取った。


(……言うか)


短く息を吐いて、通話を押す。


「――拓海か」


父の声。


低く、変わらない。


「おう」


「どうした」


「夏、帰る」


「当然だ」


「で」


一拍。


「一人、連れてく」


沈黙。


短いが、明確な“間”。


「……そうか」


声が、少しだけ沈む。


「例の、イギリスの友人か」


(……もう確定してんだな)


「まぁ、そう」


「……名前は」


「エドワード」


一拍。


「ハミルトン」


「……」


「……あの荷物の差出人だな」


「そう」


「……なるほど」


さらに一拍。


「……危険性は高いな」


「やめろ」


横から、ぱっと明るい声。


「まぁ、拓海!」


母・絢子だった。


「あの方、いらっしゃるの?」


「……ああ」


「まぁ……!」


声が弾む。


「楽しみだわ」


(……そりゃそうだろうな)


「だって、あの文箱をお送りした方でしょう?」


「……そうなるかな」


「本がお好きだと聞いて、少しだけと思ったのだけど」


「少しじゃねぇよ」


「喜んでくださった?」


「……まぁ、すげぇ大事にされてる」


「よかったわ」


満足そうだった。


「……貸して」


低い声。


兄・拓人だ。


少し間を置いて、電話に入る。


「……拓海」


「何だよ」


「一人連れてくって言ったな」


「言った」


一拍。


「……今の時期だぞ」


静かだが、はっきりとした圧。


「俺、試験前なんだけど」


「知ってる」


「静かに過ごしたい」


「それも知ってる」


さらに一拍。


「……で、なんで今なんだ」


少しだけ、棘。

だが、それだけじゃない。


「……断れる相手か?」


拓海が返す。


兄は、わずかに黙る。


「……いや」


短く。


「断れないな」


「だろ」


少し長い沈黙。


「……あいつ」


兄が続ける。


「どのレベルで“騒ぐ”」


「さぁ、分からん」


「曖昧にするな」


「マジで分からん」


「……最悪を想定する」


「やめとけ」


「近隣対応は」


「やめろよ」


「父さんがいるが、それでもだ」


「兄貴はほんと現実見てるよな」


「見ないと困る」


一拍。


「……お前の代わりに、行かなかったからな」


ぽつりと落ちる。


「……」


拓海は返さない。

兄も続けない。


ただ。


「……だから」


短く。


「余計な問題は増やすな」


「……善処する」


「信用はしてない」


「知ってる」


「……拓海」


父の声が戻る。


「一つ確認する」


「何だ」


「その人間は」


一拍。


「制御可能か」


「無理」


即答。


「……そうか」


小さく息を吐く音。


「……ならば、準備する」


「やめろ」


―そのとき。


「……ああ、そうだ」


父が思い出したように言う。


「拓海」


「何だよ」


一拍。


「お前の友人の入国申請書が、こちらに回ってきた」


「は?」


「……滞在理由の欄だが」


紙をめくる音。


「『構造的理解の深化』とある」


沈黙。


「……何だそれ」


「こちらが聞いている」


「知らねぇよ!!」


「……観光ではないのか」


「たぶん違う」


「研究でもないな」


「違うな」


一拍。


「……極めて不明瞭だ」


「俺もだよ」


父は静かに続ける。


「……一応確認するが」


一拍。


「違法性はないのか」


「ねぇよ!! たぶん!!」


「“たぶん”は困る」


「俺に言うな!!」


母が楽しそうに言う。


「まぁ、難しいことはいいじゃない」


「よくねぇよ」


「せっかくいらっしゃるんだもの」


「だからって」


「歓迎しましょう?」


「……まぁ、そうなるか」


兄がぼそっと言う。


「……防音、強化するか」


「やめろ」


父が静かに言う。


「空港で合流する」


「やめてくれよもう…」


通話が切れる。


静かな部屋。


「……終わった」


天井を見上げる。


胃が、少し重い。


「……タクミ」


振り向く。


エドワードが立っていた。


「……準備は整ったか」


「何の」


「日本遠征だ」


一拍。


「お前の家族との接触も含めて」


「……ああ」


小さく息を吐く。


「たぶんな」


エドは頷く。


「……問題ない」


「それ便利だな」


「事実だ」


窓の外は、初夏の風が、静かに吹いていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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