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幕間 「許可とは、帰還を前提とした契約だ」という話

なんかジョージ君、段々出番が増えている

ハミルトン邸、書斎。

重厚な扉が閉じる音が、静かに響いた。


室内には、紙をめくる音だけがある。


「……父上」


エドワードが声をかける。

机の向こう、ハミルトン伯爵は顔を上げなかった。


「……用件を述べろ」


短い言葉。

無駄はない。


「……夏季休暇についてだ」


「……例年通りであれば、屋敷に戻る予定だったな」


「……変更する」


一拍。


紙をめくる音が止まる。


「……日本へ行く」


沈黙。


ゆっくりと、伯爵が顔を上げた。

視線が、まっすぐに向けられる。


「……理由は」


「……構造理解の深化」


間を置かない返答。


「……タクミの生活圏を、直接観測する必要がある」


「……観光ではないのだな」


「……違う」


短い否定。


「……必要だ」


再び沈黙が落ちる。

伯爵は、しばらく何も言わなかった。


そのまま、エドワードを見ている。


測るように。

確かめるように。


「……お前は、家を空ける」


「……はい」


「……距離は遠い」


「……承知しています」


「……危険性は」


「……問題ありません」


「……何が“問題ない”だ」


わずかに、声が低くなる。


だが。


エドワードは視線を逸らさない。


「……タクミがいます」


沈黙。

空気が、わずかに変わる。


「……なるほど」


伯爵が、小さく息を吐いた。


「……“例外”か」


「……はい」


短い応答が重なる。

伯爵は視線を落とし、指先で机を一度だけ叩いた。


「……他に、条件はあるか」


「……一つ」


わずかな間。


「……ジョージを同行させる」


「……理由は」


「……兵站の管理が必要だ」


即答だった。


「……長距離移動および異文化環境下において、

物資と情報の最適化は必須だ。

彼は、そのための端末として有効である」


沈黙。


伯爵の視線が、わずかに鋭くなる。


「……認めよう」


短い言葉。


だが、その後に続いた声は、わずかに低かった。


「……ただし、エドワード」


「……はい」


「……『ハミルトンの名』を汚すような真似は慎め」


一瞬の間。

エドワードは、ほんのわずかに目を伏せた。


「……合理的判断だ」


顔を上げる。


「……そのような事態は、構造的に発生しない」


伯爵は、何も言わなかった。

ただ、静かに頷く。


「……許可は出す」


「はい」


「……だが」


静かな声。


「帰ってこい」


わずかな間。


「……それが条件だ」


エドワードは、一瞬だけ目を伏せた。


そして。


「当然です」


顔を上げる。


「私は、戻ります」


迷いはない。


伯爵は軽く頷いた。


「……ならば行け」


それだけだった。


だが、その一言で、すべてが決まる。

扉の前まで歩き、エドワードは足を止めた。

振り返らないまま、口を開く。


「父上」


「……何だ」


「面白いものを、持ち帰ります」


一拍。


「……期待している」


短い返答。


エドワードは扉を開けた。


廊下に出る。

静かに閉まる音。


その向こうで。

わずかにだけ、伯爵が目を細める。


「……ジョージか」


小さく、呟く。


「騒がしくなるな」


だが、それ以上は、何も言わなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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