小話13 「適合(フィジカル)とは、西欧の魔王(エドワード)の息子が、二歳で拓海の英才教育(ぶん回し・放り投げ)を笑顔で受け入れ、ハミルトン家屈指の大型犬男子へ育つ現象のことである」という話
大体拓海とエドワードのせい(三回目)
【欧州〜アジア出張路線:ハミルトン専用機】
「……俺、世田谷の刑事だったはずなんだけどなぁ……」
ハミルトングループ所有の専用機。
空飛ぶ執務室のソファで、拓海は白目を剥いていた。
避難という名目でロンドンへ来たはずが、気が付けばヨーロッパ中を飛び回る出張生活。
しかも同行者は……
二歳児
ノア・ハミルトン。
もっとも、困るのは拓海だけだった。
ノア本人は驚くほど順応が早い。
専属乳母
世話係
小児科看護師
幼児食専門シェフ
ハミルトン家のバックアップは過剰なほど充実している。
(……だったらエドワード、お前が見ろよ!!)
ロンドンへ戻るなり、拓海は伯爵執務室へ殴り込んだ。
「俺は保育士じゃねぇぞ!! 自分で面倒見ろ!!」
エドワードは紅茶を一口。
「……適材適所だが?^^」
「くそったれめぇぇぇぇぇ!!!!」
【出張先ホテルの庭】
まあ、引き受けた以上は仕方がない。
拓海は悠馬が幼い頃に試して失敗した遊びを、ノアにもやってみた。
高い高い
ぶん回し
空中放り投げ
もちろん受け止め前提
昔、悠馬にやった時は……
「うえぇぇぇん!!」
大号泣
その夜には知恵熱。
さらに菜摘から、
「子どもは玩具じゃないのよ!!」
と三日三晩のお説教(物理)を受けた黒歴史である。
だから今回も少し不安だった。
しかし
「きゃはははは!!」
ノアは腹を抱えて笑っていた。
「たくぱぱ!! もっと!!」
「おそらとぶ!!」
「もっとやる!!^^」
拓海は固まる。
「……何故だ?」
もう一度ぶん回す。
「きゃはははは!!」
さらに喜ぶ。
「……人種か?」
もう一度投げる。
「きゃははは!!」
「ハミルトン家の血筋なのか?」
しかし。
投げている本人は百パーセント日本人である。
「……まあ、いっか!!^^」
考えることをやめた。
その日から世界各国で始まった。
ノア専用・幼児フィジカルトレーニング。
【数年後:ハミルトンホール】
かくして
エドワードの繊細さ、
ハミルトン家の高貴な血筋、
その全てを豪快に無視して育ったノア・ハミルトン。
就学年齢を迎えた彼は、魔王の息子ではなく
拓海印・大型犬体力バカ男子として完成していた。
「悠馬お兄ちゃん!!」
「拓パパに教わった『ぶん回し』やろ!!^^」
丸太を片手で抱えながら笑うノア。
「……来ないで。……僕に近づかないで。」
悠馬は静かに胃薬を飲んだ。
エドワードは満足そうに頷く。
「……実に拓海らしい、素晴らしい成長だ^^」
「どこがよ!!!!!!」
菜摘とジェシカのツッコミが屋敷中に響き渡る。
こうして誕生した、ハミルトン家史上最強の大型犬。
そして今日もまた、そのリードを握る悠馬の胃痛だけが、順調に成長を続けるのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




