小話10 「遠隔(レス)とは、地球の裏側から届いた絶望のSOS(助けろ)に対し、信頼する親友(ジョージ&龍平)から、コンマ一秒で「諦めろ」の四文字だけが返ってくる現実のことである」という話
大体拓海とエドワードのせい(2回目)
【日本支社・執務室】
~世界一的確な返信~
午後
ハミルトン日本支社。
静かな執務室に、一通のメールが届いた。
ピコン。
ジョージは件名を見た瞬間、小さく眉をひそめる。
件名:ノア同行について
「……嫌な予感しかしない。」
メールを開く。
本文
『エドワードの命令で、次の出張からノア連れてくことになった。』
『意味わからん。』
『助けろ。』
ジョージは黙って最後まで読み終えると、ゆっくり受話器を取った。
数回の呼び出し音。
「龍平か。」
『はい。』
警視庁。
事件資料を整理していた龍平は、受話器を肩へ挟んだ。
「少し相談だ。」
『珍しいですね。』
「メールを転送する。」
数秒後、
龍平の端末へ、拓海からの悲鳴が届く。
『エドワードの命令で、次の出張からノア連れてくことになった。』
『意味わからん。』
『助けろ。』
「…………」
龍平は眼鏡を押し上げた。
「読みました。」
「結論は。」
龍平は淡々と答える。
「伯爵様は止まりません。」
「ええ。」
「佐伯さんは断りません。」
「そうだな。」
「ノア君は喜びます。」
「間違いない。」
「以上です。」
ジョージは静かにため息をついた。
「つまり。」
「詰みですね。」
「私もそう思う。」
二人は受話器越しに苦笑する。
ジョージは電話を切ると、迷うことなく返信画面を開いた。
件名:Re:ノア同行について
『諦めろ。』
送信。
「これでいい。」
ジョージは何事もなかったように仕事へ戻った。
【欧州上空・ハミルトンプライベートジェット】
ピコン。
拓海は藁にもすがる思いでスマホを開いた。
画面には、たった四文字。
『諦めろ。』
「ジョォォォォォジィィィィィ!!!!!!」
機内へ絶叫が響き渡る。
「きゃはははは!」
その声に反応して、ノアはさらに大笑い。
「ノア様! 走ってはいけません!」
乳母が追い掛ける。
「お待ちください!」
世話係も続く。
キャビンの中を二歳児が全力疾走し、その後ろを大人が列になって追い掛ける。
拓海は頭を抱えた。
「だから二歳児を海外出張に連れてくるなって言ったんだよぉぉぉ!!」
しかし返事をする者はいない。
今頃ハミルトン・ホールでは。
当の元凶が優雅に紅茶でも飲んでいるに違いない。
「……絶対、楽しんでる。」
拓海は遠い目をした。
ノアはそんなことなどお構いなしに、
「たくみお父ちゃーん!」
と満面の笑みで飛びついてくる。
「うおっ!」
その勢いで二人まとめてソファへ倒れ込む。
「きゃははは!」
「はぁ……。」
結局、
今日も世界各地で、佐伯拓海とノア・ハミルトンによる大運動会が開催されるのであった。
【数年後・日本】
休日
ジョージの自宅。
久しぶりに遊びへ来た龍平へコーヒーを差し出しながら、ジョージは一枚の写真を見せた。
そこには、
出張先で豪快に笑う拓海。
その隣で、同じように大笑いするノア。
そして、その二人の後ろで、十歳とは思えないほど疲れ切った顔をした悠馬が写っていた。
龍平は写真を見つめ、小さく笑う。
「……結局。」
ジョージも頷く。
「ああ。」
「佐伯さん。」
「何だ。」
「最終的に、全部悠馬君へ任せましたね。」
「実に佐伯らしい。」
龍平はコーヒーを一口飲む。
「教育というより。」
ジョージが続ける。
「違うな。」
二人はほぼ同時に口を開いた。
「「丸投げですね。」」
窓の外では穏やかな午後の日差しが庭を照らしていた。
遠くイギリスでは今日もきっと、拓海とノアが騒ぎ、悠馬が胃を痛めている。
そんな光景が容易に想像できる二人は、顔を見合わせて静かに笑った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




