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小話5 「受難(ブライダル)とは、特売帰りの主婦がロンドンへ連行され、気付けばハミルトングループ財政統括になっていた理不尽な現象のことである」という話

エドワードの「余計なお世話」?

【菜摘の受難:ハミルトンホール東館】

~ 主婦のパニックパケット~


「てかさ……私、英語そんなにできないんだけど、どうしよ……」


渡英翌々日。


広すぎる東館のリビングで、菜摘は高級そうなソファの端に小さく腰掛け、

両手で紅茶のカップを包み込んでいた。


緊張で落ち着かない。

そこへ、完璧に仕立てられた黒服姿のメイド長が、優雅に一礼する。


「──奥様。日本語のできる使用人、および専属の英語教師を手配するよう、

伯爵より仰せつかっております」


「あ、はい……(´;ω;`)」


(ってか、奥様!? オクサマ!?)


(あなたみたいな立派な人から『奥様』!?)


(奥様なんて、世田谷の商店街でも呼ばれたことないわよ!!)


菜摘は恐る恐る周囲を見回した。


磨き上げられた床

吹き抜けの天井

大きな暖炉

窓の向こうには、どこまでも続く庭園


「……で、えっと。この豪邸が……私たちの家になるの?」


「さようでございます。」


「…………」


「……お掃除、大変そうね……」


メイド長は穏やかに頷いた。


「掃除はすべて専属の使用人がいたします。」


「お食事は料理人がご用意いたします。」


「お子様方には担当の家庭教師と乳母が付きます。」


「…………」


菜摘は小さく首を傾げた。


「……じゃあ、私は何をすればいいの?(。´・ω・)?」


メイド長は少しも迷わず答えた。


【ハミルトン家の裏の女主人】

~ 容赦なき業務委託~


「まずは英語を習得していただきます。」


「その後、この屋敷の財政管理をお願いしたいと、伯爵がおっしゃっております。」


「…………は?」


数秒遅れて意味が頭に届く。


「なんで!?!?」


「伯爵夫人がいるでしょ!?」


「あの超絶美人のジェシカさんが!!」


「ジェシカ夫人はビジネス上の婚姻でございます。」


「ご出産後はアメリカの拠点へ戻られる予定です。」


「……」


「そのため、佐伯夫人には伯爵夫人の職務の一部──ハミルトン家の実質的な女主人として、

財政管理をお願いしたいとのことでございます。」


「…………」


「…………ちょっと待って。」


「え、私?」


「普通の主婦よ?」


「昨日までタイムセールで半額のお肉追いかけてたのよ?」


「いきなり世界有数の財閥の家計って何!?」


頭が完全に追いつかない。

菜摘は勢いよく立ち上がった。


「す、すみません!!」


「旦那を! 拓海を呼んでもらえます!?」


あの人ならきっと、


「ガハハ! 何言ってんだバーカ^^」


と笑って、この状況をどうにかしてくれる。


そう信じていた。


しかし

メイド長は少しだけ申し訳なさそうに一礼した。


「──佐伯様は、本日より欧州へ出張でございます。」


「…………」


「…………え?」


「二週間ほど戻られません。」


「――――『聞いてないんだけどぉぉぉぉぉ!!!!!?』」


その絶叫は、東館中へ見事に響き渡ったという。


世田谷の三LDKで、夕飯のハンバーグを焼いていたはずの普通の主婦・佐伯菜摘。

旦那はハミルトングループ【世界統括会議議長】としてヨーロッパ各地へ飛ばされ、

自分はロンドンの超豪邸で【ハミルトン家の裏の女主人(財政統括)】として

英語と執事教育を叩き込まれることになった。


すべては、「親友を幸せにしたい」という伯爵の善意から始まった出来事である。


なお、本人(伯爵)は、


「何か問題でも?」


と思っている。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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