小話3 「昇進(バグ)とは、ヨーロッパ全域の出張を生き延び『ようやく帰れる…』と安心した男が着陸と同時にハミルトングループ世界統括会議の議長へ爆破昇進させられる理不尽な現象のことである」という話
まだつづきます
【二週間後:ハミルトンホール・書斎】
~地獄からの帰還~
イタリア
ローマ
南フランス
怒涛の勢いでヨーロッパ各地を飛び回った二週間。
ようやくハミルトンホールへ帰還した拓海は、書斎のソファへドカッと腰を下ろし、
高級紅茶を缶コーヒーのように一気に飲み干した。
「……まぁ、ヨーロッパの出張ならイギリスに戻って来られるし。」
「家族の顔も見られる。」
「なんだかんだ、何とかなるか……バカ日常^^」
慣れない総代の仕事にも、どうにか順応し始めていた。
そんな拓海へ、デスクの向こうからエドワードが静かに問いかける。
「……安心したか?」
「お、おう。」
「まぁ、覚悟決めたからな。」
「そうか。」
エドワードは静かに頷き、机の引き出しを開けた。
そして、もう一冊、
重厚な本革のファイルを取り出す。
「……こちらもだ。」
「……?」
拓海は受け取り、表紙を開いた。
そこには金箔で、大きく刻まれていた。
『ハミルトングループ 世界統括会議』
「…………。」
無言のままページをめくる。
ヨーロッパ
北米
南米
アジア
オセアニア
中東
アフリカ
世界地図を埋め尽くす各経済圏。
拓海はゆっくりとファイルを閉じた。
冷や汗が頬を伝う。
「……エド。」
「何だ。」
「……これ、何?」
「グループ全体の組織図だ。」
「……俺、ヨーロッパ統括じゃなかったの?」
「普段はヨーロッパだ。」
「……普段?」
「年四回、世界統括会議を開く。」
「各地域の総代が集まる。」
「その議長を務めてもらう。」
拓海は固まった。
「…………。」
「…………誰が?」
エドワードは、心底不思議そうな顔をした。
「君だ。」
「──俺ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
【悲鳴と過保護は比例する】
拓海は勢いよく立ち上がり、机をバシバシ叩く。
「待て待て待て!!」
「ヨーロッパ統括じゃねぇのかよ!!」
「そうだ。」
「何が『そうだ』だ!!」
「世界会議では別だ。」
「何が別だ!!」
「議長を務めるだけだ。」
「─だけじゃねぇよ!!!!この馬鹿ちんが!!!!!^^」
エドワードは、なおも落ち着き払っている。
「安心してくれ。」
「副議長はジョージだ。」
「ジョージ!!」
その瞬間。
壁いっぱいの大型モニターが起動した。
画面いっぱいにジョージの笑顔が映る。
『あははは! サエキ君、お帰り^^』
『ちなみに僕も「さすがに急すぎます」って止めたんだよ?』
ジョージは咳払いを一つすると、エドワードの物真似を始めた。
『──"議長はタクミ以外あり得ない。"』
『……って、十年前から決めてたからね^^』
「──また十年前ぇぇぇぇぇ!!!!!」
【役職と役目】
絶叫する拓海を前にしても、エドワードは少しも動じない。
「……タクミ。」
「君は勘違いしている。」
「……何をだよ。」
「ヨーロッパ統括は役職だ。」
「……?」
エドワードは静かに告げた。
「世界総代は役目だ。」
「─違いが分からん!!!!」
「分からなくていい。」
「よくねぇよ!!」
「俺はただ世田谷でママチャリ乗ってた刑事だぞ!!」
「なんで地球規模になってんだバカタレ!!!!^^」
本人の拓海だけは最後まで頭を抱えていた。
だが、エドワード・ハミルトンにとっては違う。
「佐伯拓海以外に、この地球規模へ広がったハミルトン経済圏をまとめられる人間など存在しない。」
それは誇張でも理想でもない。
彼は、そのことを一片の迷いもなく、本気で信じていたのである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




