↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
632/734

第五百七十二話 「限界(リミット)とは、防衛(守り)の限界ではなく、愛する家族の『普通の日常(笑顔)』を守り続けようとする父親の耐用年数のことである」という話

やっとここまできたー(´;ω;`)

【GL日本支部の壊滅と、偽りの安堵】


警視庁と公安による一斉摘発。


【General Logistics】日本支部の主要アジト、ダミー企業、

そして極東エリアの幹部たちは次々と逮捕された。


テレビでは連日、「国際物流網を利用した巨大犯罪組織壊滅」と大々的に報じられ、

長年追い続けた事件の終結として扱われていた。


警察内部も同じだった。

公安はもちろん、警視庁捜査一課にも、ようやく肩の荷を下ろしたような空気が流れている。


世田谷署

松本龍平は積み上がった事件資料を閉じ、静かに息を吐いた。


「……終わりましたね。」


拓海は返事をしない。

龍平は続ける。


「日本支部は完全に機能停止です。幹部も押さえた。これ以上、

日本国内で組織的な活動はまず不可能でしょう。」


一拍。


「美咲さんも、もう狙われることはありません。」


公安の刑事たちも缶コーヒーを片手に談笑している。


「ようやく終わったな。」


「久々に休めそうだ。」


誰もが事件の終結を信じていた。


ただ一人を除いて。


窓際で夕焼けを眺める拓海だけは、ずっと黙ったままだった。


証拠はない。

公安の情報も。

警察のデータベースも。


すべてが「終わった」と示している。


……なのに。


家の周囲

通勤路

悠馬の幼稚園の近く


何日経っても、あの冷たい視線だけが消えない。


姿は見えない

車も、人影もない


それでも

”見られている”


そんな感覚だけが、一ミリも薄れなかった。


(……違う。)


(終わってねぇ。)


事件を追う刑事としてではない。


何百件もの事件現場で、生きるか死ぬかの境界を歩いてきた人間として……

拓海の"勘"だけが、静かに警鐘を鳴らし続けていた。


【父親としての限界】


その日から、

悠馬は幼稚園を休ませていた。

最初は一日だけのつもりだった。


「念のため。」


その一言だった。


一日が二日になり

二日が四日になり


気づけば、一週間。


朝、

本来なら制服に着替え、幼稚園バスを待つ時間。


リビングでは悠馬が一人、積み木を並べていた。

ふと顔を上げる。


「おとうさん。」


「ん?」


「きょうも、おうち?」


「ああ。」


「……そっか。」


少しだけ笑って、また積み木へ視線を戻す。


しばらくして、

ぽつりと呟いた。


「……いつまで、おやすみするの?」


拓海は答えられなかった。

その横で双子が窓の外を見つめている。


「こうえん、いきたーい。」


「ぶらんこ!」


「すべりだい!」


菜摘は笑顔を作る。


「もう少しだけ我慢しようね。」


「どうしてー?」


「……。」


答えられる大人は、誰もいなかった。


夜、

子どもたちが寝静まったあと。


静かなリビング。

菜摘はテーブルの上に置かれた幼稚園からのお便りを見つめながら、小さく口を開いた。


「今日も先生から電話があったよ。」


拓海は黙って聞いている。


「悠馬くん、体調は大丈夫ですかって。」


「お友達も心配してるって。」


少し笑う。


「おともだちがね、『悠馬くん、まだかなぁ』って毎日言ってるらしいよ。」


笑っているのに、

その声は少し震えていた。


「……ねぇ、拓海。」


「テレビでは終わったって言ってた。」


「もう、大丈夫なんじゃないの?」


長い沈黙。

拓海は缶コーヒーを握りしめたまま、小さく答えた。


「……終わったなら。」


「明日からでも幼稚園へ行かせる。」


菜摘が顔を上げる。


「でも。」


拓海は静かに目を閉じた。


「……俺の勘が、『まだだ』って言ってる。」


菜摘は何も言わなかった。

その勘に、何度も救われてきたことを知っているからだ。


拓海は考える。


ホテル。

駄目だ。

出入りする人間を管理できない。


菜摘の実家。

論外だった。

調べようと思えば、住所などすぐに割れる。


一般家庭では守りきれない。


警察の保護。

制度上、長期間は不可能。

何より。

幼稚園へも行けない。


公園でも遊べない。

買い物すら自由にできない。


全部、却下だった。


最後に残ったのは、この家。


ハミルトンが密かに敷いた監視網。

世田谷署の警戒ルート。

周囲への防衛体制。


現時点では、日本で一番安全な場所かもしれない。


だから動かない方が安全だ。


……だが。


一週間なら耐えられる。

一か月も、きっと耐えられる。


拓海は静かに呟いた。


「……半年は。」


答えは出なかった。


悠馬から幼稚園を奪う。

双子から公園を奪う。

菜摘から平穏な日常を奪う。


それは守ることではない。

閉じ込めているだけだ。


(日常を殺して守る防衛なんて、防衛じゃねぇ。)


拓海は深く息を吐いた。


思考はもう、「場所」を探していなかった。


ホテルでもない。

警察でもない。

施設でもない。


必要なのは

家族が普通に笑って暮らせるほどの安全を、そのまま用意できる人間。


その瞬間。

脳裏に、一人の男の姿が浮かんだ。


金色の髪。

いつも呆れるほど落ち着いた蒼い瞳。


過保護で

面倒で

誰より信用できる親友。


拓海はテーブルの上の携帯電話へ視線を落とす。

その番号を押せば家族は助かる。


だが同時に、

十年以上続いてきた、自分たちの人生も大きく動き始める気がした。


拓海は携帯を手に取ることもできないまま、静かな夜のリビングで、一人長く目を閉じていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。